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かあさん 毒親上等!!

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「あんだって、聞こえねえな」

広島の酔心の一升瓶をどっかと畳に置くと、

殴られて泣いて帰ってきた俺を母はにらみつける。

体中の血が凍り付いてしまうのではないかと思うくらい、

俺はその視線におびえた。

「なんで泣いてんだよ。男のくせに」

僕は、口の中でぼそぼそとしゃべっているんだけど、

声にならない。

さっき、いじめられた5歳上の施設の子を思い出しただけで、

この世の終わりのように思えた。

俺は、普段は養護施設に預けられていて、

月に一回、母のアパートに泊まりに来ていた。

「誰にやられたんだ」

「五十嵐君」

小さな声でやっとつぶやく。

「同じ年?」

「ううん、5つ上」

「やられたらやり返す。3倍返しだ」

これは、おばあちゃんにも小さいころ言われたことがある。

子供は、親の言うことは聞かなくても、

親のすることは真似するみたいだ。

かあさんだって、きっと、気づかずに真似しているんだろう。

俺の中のかあさんには、神話があった。

新宿の三大暴力団〇〇会のやくざの事務所に連れていかれ、

裸にされて頭から水をぶっかけられても

かあさんは、自分の信念を曲げなかった。

それは、弱いヘタレの俺にとっては、

英雄伝説だった。

母さんは、毒親だし、決して品行方正なんかじゃない。

むしろ、サイコパスなのかソシオパスなのかわからないが、

反社会性パーソナリティー障害だ。

一人でよく少林寺拳法の演武をしたりしてる。

俺が中二病になって反抗期に突入すると、

「そんな事ばっかり言ってると、

やくざの事務所当番にするぞ」

と、平気で脅す。

一言でもぶつくさ言おうものなら、

「親に向かってお前は」

と、怒鳴る。

結局さ、自分が親からされたように自分の子供にも

しているんだよね。

かあさんは、おじいちゃんから、日本刀を抜かれて

「お前を殺して、私も死ぬ」

と、脅された。

それは、おじいちゃんのかあさんに対する最大限の愛なんだろうが、

心のすさんだかあさんには、愛だとは思えなかったんだって。

俺も同じなんだろうな。

絶対といっていいほどあり得ないことだけど、

もしも、俺が結婚して家庭を持って、

子供が生まれたら、やっぱり知らず知らずに

毒親と呼ばれるような頓珍漢なことをするんだろうな。

子をもって知る親の恩。

無理だーー。

俺には、3時間おきに起きて、おしめを変えて

ミルクを与えて、己を捨てて死に、

命を子供に与えるなんてアガペできねー。

だから、最近思うんだ。

「毒親上等!!「」

それがかあさん色の愛情だったんだ。

今なら、胸を張って言えるぜ。

俺は世界でたった一人のかけがえのない人間として、

たくさんの慈しみを受けて育てられたって。

なぁ、そうだろう。

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