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父さんが、荷物を持って出て行きました。

それから何日かして、母さんも帰ってきません。

テーブルの上には、キャッシュカードと暗証番号が

書かれた紙がありました。

僕は中学2年生です。

妹は、小学1年生。

初めは楽しかったんです。

親から叱られることもない。

好きなときに起きて、

好きなものを買ってきて食べて、

好きなだけゲームして、

好きなときに寝る。

1日がたち、2日がたち、

だんだん僕も妹も

外に行くのは買い物だけになりました。

3日たち、4日たち、

体が少しくさいので、

お風呂に入りました。

5日たち、6日たち。

だんだん、不安になってきます。

「お兄ちゃん、パパいないね」

「お兄ちゃん、ママ帰ってこないね」

7日たち、8日たち。

買い物に行くことさえ面倒です。

僕はどんどん自分勝手になり、

お金を渡して、妹にお弁当を買いに行かせます。

コンビニはすぐ前のビルです。

9日たち、10日たち。

「わたしたち、捨てられたのかな」

「うるさい、黙ってろ」

いらいらしてきました。

妹に優しくしてあげられるのは

僕だけなのに。

僕の心が乾いて、

愛を渡せない。

愛を持っていないからです。

「えーーーん」

妹は泣いています。

僕は、妹の頭をなでました。

妹をはぐしました。

乾いていた僕の心に

少しだけ優しい水が沸いてきます。

妹の髪がくさい。

お風呂に入ったはずなのに、

ちゃんと洗えてないのかもしれません。

「よし、お兄ちゃんとお風呂に入ろうか」

「うん」

妹の背中を洗います。

妹の首も手もおなかも足も洗います。

「おまたは自分で洗って」

「うん」

妹の髪を二度洗いしました。

吐き気のするような匂いはなくなりました。

「ママ、帰ってこないかな」

また泣き始めます。

お風呂に一緒に入って、

お湯をかけて、

一緒に遊びます。

泣かれるといらいらするからです。

「ねえ、お兄ちゃん」

「生まれてこなかったほうがよかったのかな」

「そんなことないよ」

「パパもママも心配してるよ、きっと」

「じゃあ、どうして帰ってこないの」

「……」

神様、これは僕への罰ですか。

いじめで学校に行かなくなったから、

パパとママは別れたんですか。

僕がいい子じゃないから、

ご飯も作ってもらえないんですか。

僕がいい子になれば、

パパとママは帰ってくるんですか。

マンションの壁中、死ねとか書かれて。

学校に居場所がなくなって、

おうちでも……。

僕は、いらない子なんですか。

生まれてきちゃいけない子だったんですか。

パパは出て行く前、僕をマグカップでなぐりました。

僕は頭にきて、マンションの壁に穴を開けました。

パパは、自分のお母さんに

僕たちのおばあちゃんに殺人事件がおきそうだ

と、いったそうです。

ステップファミリーだから、

向き合ってもらえないんですか。

僕は、パパとお話がしたかったです。



お米がなくなりました。

僕すぐそばのスーパーに妹と一緒に買い物に行きました。

油蝉とみんみん蝉が鳴いています。

じっと立っているだけでも暑いです。

意地悪な太陽は、これでもかというほど

アスファルトを照りつけ、反射した熱が

僕らを襲います。

お米5キロ。

とっても重かったです。

ふと、ママがスーパーの袋を何個も持って

買い物から帰ってきたことを思い出しました。

ママは、こんなに重かったんですね。

「神様、お願いです。今度はいい子になりますから、

ママを帰してください。お買い物も手伝います。

だから、お願いです」

買い物が終わって、お米を研いで、

僕は、ふとベランダから下を見下ろした。

ここから、妹と飛び降りたら、

神様のところにいけるのかな。


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