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つげの櫛

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「おなかすいたー」

学校から帰っても誰もいない。

母は、多分、田んぼか畑にいる。

「仏壇にお菓子、上がってるかな」

木の箱がある。

開けると、白い塊があった。

この地方は、土葬で火葬を知らなかった。

「砂糖菓子なのかな」

小さな塊を口に含んだ。

がり、じゃり。

甘くもおいしくもない。

食べるのをやめて、台所に行く。

ごはんはおかまに残っていた。

おにぎりを作った。

瓶に入った干しわかめの刻んだものをまぶして、

わかめむすび。

梅干しのかめから、梅干しと、シソをだして、

おにぎりに入れた。

「母ちゃまのぶんと弟のぶんとわたしのーー」

楽しそうに笑って、裏庭から

葉らんのはをとってくる。

二つずつ、おにぎりをくるんでひもで止めた。

「よし、でーきた」

「さっきのお菓子何だったんだろう」

ちょっと気になりながらも、食べたことさえ忘れていく。

飛鳥ちゃんは、中学2年生。

女の子の日が定期的に最近始まった。

とってもスレンダーな体だから、女の子の日の始まりも遅かったのだろう。

あだなは、もやし。

「ぐすん、もやしじゃないもん」

おにぎりをほおばりながら、

小鹿のバンビの歌って歌って、

くるくる回っている。


子鹿(こじか)のバンビは かわいいな
お花がにおう 春の朝
森の小薮(こやぶ)で 生れたと
みみずくおじさん いってたよ

あどけない、とても中2には思えないような

純真な子。

夕方、そろそろ、自分も自分のお部屋が欲しいなと思い、

二階に上がっていった。

ひもを引っ張ると階段が下りてくる。

まるで忍者屋敷みたい。

想像しながら、くすっと笑った。

階段をソート登っていった。

「まっくろくろすけ出ておいで」

心の中でそうつぶやくと、

ぎーと音を立てながら

二階の扉を開く。

そーと覗いてみる。

髪の長に女の人が鏡台の前に座っている。

敗れた雨戸の薄明りの中、

その人は座っていた。

「誰だろう」

目が点になり、釘付けになる。

「だーれ」

話しかけてみる。

その女の人は、つげの櫛を口に加え、

ふりむいて、ニーと笑った。

その顔は……。

口裂け女。

「ひーーーーー」

階段から転げ落ちた。

そのまま、気絶してしまった。

一つ下の弟は、柔道部の練習が終わり、家に戻った。

おねえちゃんが作ってくれた、おにぎりをほうばりながら、

「あれ」

いつもなら、お風呂の用意をしたり、

晩御飯の準備をしているお姉ちゃんがいない。

弟の名前は庵。

「お姉ちゃん、飛鳥お姉ちゃん」

読んでも返事がない。

いろいろのお部屋を覗くが、姿はなかった。

そこに父親が帰ってきた。

「ただいま、どうした、庵」

「ん、お姉ちゃんがいない」

父親と、庵で探し始める。

蔵の中を見てもいない。

鳥小屋にも、牛小屋にもいない。

木小屋にもいない。

どんだけ広いんだよ、このいえはーーー。

玄関の後ろの飾り戸棚の後ろの階段のところに。

「まさかねー」

あれ、いた。

「いたよー。ねてる」

「寝てるじゃなくて、気絶してるんじゃないのか」

お父さんも駆けつける。

案の定、倒れている。

そっと、抱き上げ布団に寝かせた。

呼吸はある。脈も正常だ。

お父さんは、手のツボを押さえた。

「いたーい」

飛鳥は気が付いて、びっくりした顔をしてる。

「あわわわわ、おばけ」

「ん、どうした」

「ひーーー、口裂け女」

「夢でも見たんじゃないか」

飛鳥は二階を指さしている。

「二階?誰かいたのか」

飛鳥は頷いている。

お父さんは、二階を見に行った。

「誰もいないじゃないか」

「いたもん、口裂け女」

つげの櫛が鏡台の前に置かれていた。

それは、仏さまに置いてある箱の中の骨、

杏子おばちゃんの物だった。

飛鳥がお菓子と間違えて食べてしまったのは、

お父さんの妹の杏子おばちゃんの骨

その日、飛鳥は写経をした。

観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智、亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罜礙、無罜礙故、無有恐怖、遠離・一切[注 6]・顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪。
即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経

よんでくださってありがとうございます。



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