ほっこりできるで賞

おひとり様天国

おひとり様天国

静かな日曜日の午後、奈々子はひとりでお気に入りのカフェに足を運んだ。東京の喧騒から少し離れたこのカフェは、緑豊かな庭が広がり、都会の中にある小さなオアシスだった。店内には、落ち着いた音楽が流れ、訪れる人々もどこか静かで穏やかだ。

奈々子は窓際の席に腰を下ろし、メニューを手に取った。店員が微笑みながらお冷を差し出してくれる。「いつものカフェラテと、本日のケーキセットをお願いします」と奈々子は言った。店員は軽くうなずき、注文を取りに去っていった。

カフェラテを待つ間、奈々子は持ってきた本を開いた。最近は一人で過ごす時間が増えていたが、その時間が心地よく感じられるようになっていた。周囲の友人たちが次々と結婚し、子供を持ち、家族の生活を築いていく中で、自分だけが取り残されたような気持ちになることもあった。しかし、ある時ふと気づいたのだ。一人で過ごすことには、自由と贅沢が詰まっていると。

「お待たせしました、カフェラテと本日のケーキセットです」店員がテーブルにカフェラテと美しいケーキを置いた。奈々子はその香りを楽しみながら、カフェラテを一口飲んだ。温かいコーヒーの香りが鼻をくすぐり、心まで温かくなる。

ケーキを一口食べると、ふわっとしたスポンジと甘さ控えめのクリームが口の中で溶けていく。奈々子はその美味しさに満足しながら、本に視線を戻した。

カフェの窓から見える庭には、色とりどりの花が咲き乱れ、鳥たちが楽しげにさえずっている。その風景を眺めながら、奈々子は自分の内なる声に耳を傾けた。最近は一人で旅行に行くことも多くなった。誰にも気を使わず、好きな場所へ行き、好きな時間に帰る。自由な時間の中で、自分自身を再発見する喜びがあった。

一人旅の中で出会った人々や風景は、奈々子に新たな視点を与えてくれた。小さな村の静かな湖畔、古い図書館の静謐な空気、美しい夕焼けに染まる海岸線。それらは全て、自分だけの特別な思い出として心に刻まれた。

奈々子はふと、カフェの入り口に目を向けた。そこには、カップルや家族連れが楽しそうに談笑している姿が見えた。その光景を見て、奈々子は微笑んだ。自分には自分の時間がある。他人と共有する時間も素晴らしいが、自分自身と向き合う時間もまた大切だと。

奈々子はケーキを食べ終え、本を閉じた。お会計を済ませ、カフェを後にすると、庭を散策することにした。木々の間を歩きながら、鳥のさえずりや風の音に耳を澄ます。心地よい自然の音が、奈々子の心をリフレッシュさせてくれた。

このカフェの庭には、小さなベンチが点在している。その一つに腰を下ろし、奈々子はしばらくの間、空を見上げていた。青空が広がり、白い雲がゆっくりと流れていく。その風景を見つめながら、奈々子は自分自身の未来について考えた。

「一人でいることは、孤独ではなく自由なんだ」と、奈々子は心の中でつぶやいた。これからも、自分のペースで、自分の好きなことをして生きていこう。そう決意すると、奈々子の心は軽やかになった。

カフェを後にして、奈々子は帰り道を歩いた。街の喧騒が戻ってきたが、その中でも奈々子は穏やかな気持ちでいられた。一人の時間を大切にし、自分を満たすことで、他人との関係もより豊かにできると感じた。

奈々子の心には、今日のカフェでのひとときが、新たな力となって刻まれていた。おひとり様天国での贅沢な時間は、これからも彼女にとって大切なものとなるだろう。