不撓不屈

春秋花壇

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自分に期待することではじめて物事は可能になる

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自分に期待することではじめて物事は可能になる

長谷川俊介(しゅんすけ)は、あらゆる場面で自分に自信を持てない男だった。仕事では、優秀な同僚たちに囲まれ、ついつい自分を比較してしまう。友人との約束もよく忘れ、デートに遅れることもしばしばだった。そんな自分が嫌でたまらなかった。しかし、周りからの期待にはどうしても応えられず、つい後ろ向きな考えに支配される日々が続いていた。

俊介の最大の問題は、「自分には無理だろう」と思い込んでいることだった。幼い頃から、両親や教師から言われていた「お前にはできるはずだ」といった言葉も、どこか遠くのものに感じられ、自分に対する期待を重荷に感じていた。彼の心の中では、いつも小さな声がささやいていた。「どうせ自分には無理だ」「自分なんて価値がない」と。

そんなある日、俊介は一冊の本を手に取った。それは、仕事の仲間から勧められた自己啓発書だった。彼は興味本位でページをめくってみると、そこには「自分に期待することこそが、物事を可能にする」という一文が目に留まった。その言葉に、彼はふと立ち止まった。

それまで彼は、周りの期待に応えようと必死で努力してきた。しかし、それはあくまで他人の期待に答えるためのものだった。自分自身が期待しているわけではない。ただ義務感やプレッシャーで行動していたのだ。

「自分に期待する」―それが、彼にとって初めての概念だった。

その夜、俊介は自分自身に問いかけてみた。もし、周りの誰にも期待されなくても、自分自身が自分に期待したらどうなるだろうか。もし、失敗しても自分を責めるのではなく、成長を期待するようになったら?その考えは、彼の心に小さな希望の光を灯した。

翌日、俊介は自分の仕事に少しだけ意識を変えて臨むことにした。今までは「失敗したらどうしよう」と恐れていたが、今日は違った。「もし失敗しても、それが次に繋がるチャンスだ」と自分に言い聞かせながら。

結果は予想外に良かった。以前よりも集中でき、会話もスムーズに進んだ。そして、次の週に迫ったプレゼンテーションでも、俊介は自分の意見を堂々と発表することができた。それまでの彼は、プレゼンで緊張しすぎて言葉が詰まり、上司の前でうまく話せなかった。しかし、今回は違った。自分を信じ、期待しながら話すことで、言葉が自然と出てきたのだ。

プレゼンが終わると、上司から予想外の言葉をかけられた。「俊介君、今回はすごく良かったよ。いつもよりも明確に伝わったし、しっかり準備してきたのが分かる。」その言葉を聞いた俊介は、思わず心の中で微笑んだ。自分に期待した結果が、思わぬ形で返ってきた瞬間だった。

「自分に期待する」―その言葉が、少しずつ彼の世界を変え始めていた。俊介は次第に、周りの評価や期待を気にするのではなく、自分の成長に期待するようになった。失敗してもそれを学びとして受け入れ、次にどう活かすかを考えるようになった。

ある日、友人から「最近調子が良さそうだね。なんか自信がついた感じ?」と聞かれた。俊介は少し驚いた。自分でも気づかないうちに、変わり始めていたのだ。「うん、ちょっとね。自分に期待してみたんだ。」と俊介は答えた。その言葉を言うとき、彼の心にはもう以前のような不安や自己否定はなかった。

その後も、俊介は小さな目標を立てては自分に挑戦し続けた。自分ができると信じることから、次第に自分を越えていく力が湧いてきた。そして、気づけば仕事もプライベートも以前よりも充実したものになっていた。

「自分に期待することではじめて物事は可能になる」―俊介は、あの本の一文を今でも大切にしている。自分を信じ、期待することで、世界は少しずつ変わっていく。大切なのは、他人の期待に応えようとするのではなく、自分自身が自分に期待をかけ、その期待に応えようとすることなのだ。







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