不撓不屈

投げない、逃げない、諦めない

投げない、逃げない、諦めない

冷たい雨が降る中、私は一人、古びた公園のベンチに座っていた。足元には、運動靴を履いた少年が一人、サッカーボールを蹴りながら遊んでいる。彼の無邪気な姿に、ふと自分の過去が重なる。私もかつては、あの少年のように夢を持ち、未来に期待していた。

しかし、今の私は、そんな明るい未来を描くことができずにいた。高校のサッカー部のエースとして期待されていた私だったが、膝の怪我が私のキャリアを奪った。リハビリを重ねたものの、思うように動けない体。サッカーを愛し続ける一方で、夢が遠のいていく現実に心が折れそうになっていた。

「投げない、逃げない、諦めない。」

心の中で何度もその言葉を繰り返す。しかし、現実の厳しさがそれをかき消してしまう。怪我からの復帰を果たし、再びフィールドに立つことができるのだろうか。自信を失った私は、練習にも参加せず、ただ公園でボールを眺めるだけの日々を送っていた。

そんなある日、ひょんなことから一人の少女と出会うことになる。彼女は同じ公園で、いつも一人でサッカーをしていた。初めて彼女のプレーを見たとき、その巧みなボールさばきに目を奪われた。彼女の名はアヤ、まだ小学六年生だという。

「すごいね、君のドリブル！」思わず声をかけると、彼女は振り返り、照れくさそうに笑った。

「ありがとう！でも、もっと上手になりたいんだ。」

その言葉に、私は思わず胸が熱くなった。アヤは夢を追い求めている。その姿勢が、私の心の奥に眠っていた情熱を呼び起こした。

「じゃあ、一緒に練習しようか？」

その日から、アヤと私は毎日公園で会うようになった。彼女は私に技術を教えてほしいと頼んできたが、逆に彼女から多くのことを学ぶことになった。彼女の前向きな姿勢、努力を惜しまない姿に触発され、少しずつ自分を取り戻していった。

ある日、アヤが真剣な表情で言った。「私、将来プロになりたいの。だから、もっと頑張らないと！」

その言葉に、私も「プロ」とは何かを考えさせられた。自分の夢はどうなったのか、投げ出してしまったのか？アヤの夢は私の心に火を灯し、自分もまだ挑戦できるのではないかと思わせてくれた。

「投げない、逃げない、諦めない」——その言葉を思い出し、私は再びサッカーに向き合う決意をした。アヤの存在が、私の背中を押してくれたのだ。

次の日、私は久しぶりにグラウンドに足を踏み入れた。周囲の視線が気になりながらも、練習に参加することにした。身体は覚えているかのように動き、少しずつ感覚を取り戻していった。周りの仲間たちも私を迎え入れてくれ、温かい言葉をかけてくれた。

怪我の痛みはまだ残っていたが、心の中のモヤモヤは晴れ、晴れやかな気持ちになった。練習が終わると、アヤが待っていてくれた。

「すごかった！もっとやってみよう！」

その言葉が、私の自信をさらに高めた。アヤとの練習は楽しく、いつの間にか私自身も上達していくのを感じた。サッカーを通じて、彼女との絆も深まっていった。

季節は移り変わり、春が訪れた頃、私たちの努力が実を結ぶ時がやってきた。アヤが参加する地域の大会に出場することになったのだ。私はアヤのコーチとして、彼女を全力でサポートする決意をした。

大会当日、私たちは緊張しながらも、お互いを励まし合った。試合が始まり、アヤは持ち前の技術を発揮していく。彼女がゴールを決めるたびに、観客が歓声を上げ、私の胸も高鳴った。

最後の試合、アヤが決勝ゴールを決めた瞬間、会場は大歓声に包まれた。彼女の笑顔が輝き、私の目にも涙が浮かんだ。夢が叶った瞬間を、一緒に味わうことができたのだ。

試合後、アヤが私のところに駆け寄ってきた。「ありがとう！おかげで優勝できたよ！」

「君の努力が実ったんだよ。本当におめでとう！」私も笑顔で答えた。彼女の成功が、私の心にも希望をもたらしてくれた。

あの日、投げ出さず、逃げず、諦めないことを決意したおかげで、私は再びサッカーに向き合い、夢を追い続けることができた。そして、アヤとの出会いが、私を支え、励ましてくれたのだ。

これからも、どんな困難が待ち受けていても、私たちは一緒に乗り越えていくことを誓った。投げない、逃げない、諦めない——その信念が、私たちの未来を明るく照らしてくれると信じている。