不撓不屈

注意欠陥多動性障害ADHDの不撓不屈

注意欠陥多動性障害ADHDの不撓不屈

陽が昇り始めたばかりの朝、彩乃はいつもと同じように目覚まし時計の音で起きた。部屋の窓から差し込む光が、彼女の寝ぼけた目を射し、少しずつ意識が覚醒していく。布団を蹴り上げ、重たい体を起こしてリビングへ向かう。彼女の朝は、世間一般の人々にとってはただの一日の始まりに過ぎないが、彩乃にとっては新たな挑戦の始まりだった。

彩乃は注意欠陥多動性障害、いわゆるADHDを抱えていた。それは、集中力を維持することや、計画的に行動することが極めて難しいという特徴を持つ。幼い頃から、彼女は周囲の人々が容易にこなすことが、自分にはどうしてもできないことに悩んでいた。学校の授業中、彩乃の頭の中では、まるで嵐のように思考が駆け巡り、教師の声が次第に遠のいていくことが多かった。結果、授業内容が頭に入らず、テストでも失敗を繰り返していた。

大人になった今でも、その困難は変わらない。仕事に行く前に必要な書類を忘れることも多く、朝の支度でさえ一つひとつ確認しないとすぐに何かを忘れてしまう。今日もまた、彼女は会社の制服を着替えた後、忘れ物がないか確認するために鞄の中を何度も見直した。それでも何かを忘れているのではないかという不安が消えることはない。

出勤途中の電車の中、彩乃は自分のスマートフォンを確認し、スケジュールアプリで今日の予定を何度もチェックする。彼女にとって、このような反復的な行動は必須だ。何度確認しても、何かが抜けているのではないかという不安が拭えない。それは、彼女が過去に犯した多くのミスの記憶が、未だに心の奥底に残っているからだ。

会社に着くと、彩乃はまずデスクの上にあるメモ帳を見つめる。そこには、今日やるべきタスクがびっしりと書かれている。通常の人々なら、順序立ててこなすことができるであろうそのリストも、彩乃にとっては難解なパズルのように感じる。「これをやったら、次はあれを…いや、先にこっちを終わらせた方がいいかもしれない」―彼女の頭の中で次々とタスクの順序が入れ替わり、どれを先にすべきかが分からなくなってしまう。

そんな日々の中でも、彩乃は負けない。何度も心が折れそうになりながらも、彼女は自分に言い聞かせる。「今日もやり抜こう、何があっても」―それが彼女の毎日のモットーであり、自分を支える唯一の心の柱だった。彩乃にとっては、一つひとつのタスクを完了することが、まるで山を登るような作業に感じる。それでも彼女は諦めない。自分に対する否定的な声が頭の中で囁いても、彼女は耳を塞ぎ、前を向いて進んでいく。

仕事が終わり、家に帰る頃には、彼女の体も心も疲れ果てていた。

駅から自転車で自宅に帰るだけで、何度も車にぶつかりそうになったり、いきなり怒鳴られたりする。

だが、家に帰った瞬間に待っているのは、また新たな挑戦だ。家事をこなすために必要なリストを作り、順序立ててこなしていく。夕食の準備中、彼女はまたもや手を止めて、忘れていた材料を買い忘れたことに気づく。「またか…」と自分を責める声が頭を過るが、彼女はそれを振り払うように冷蔵庫を見直し、他のもので代用することを考える。臨機応変に対応する力もまた、彼女が長年培ってきたものだ。

夜、ベッドに横たわると、彩乃は一日の出来事を振り返る。今日も数多くのミスを犯したかもしれないが、それでも自分はやり遂げたという達成感が胸を満たす。そして明日もまた、新たな挑戦が待っているのだ。ADHDを抱える彩乃にとって、毎日は不撓不屈の修練場であり、その度に彼女は自分を奮い立たせ、前進し続けるのだ。

彼女は、自分が完璧である必要はないことを理解している。重要なのは、自分自身を信じ続けること。そして、何度失敗しても、それを乗り越えて進んでいく勇気を持ち続けること。彩乃にとって、それが「不撓不屈」の意味であり、毎日の生活そのものがその証であった。