不撓不屈

一歩踏み出す勇気

「一歩踏み出す勇気」

井上健二は、45歳になっても自分の目標を達成できずにいた。彼はいつも、大きなことを一度にやろうとしすぎて失敗してしまうことが多かった。仕事のプレゼン、家族とのコミュニケーション、趣味の充実—どれも完璧にやりたいと思うあまり、つい手がつけられずにいた。

ある日のこと、健二は街中で偶然、知り合いの佐藤さんに出会った。佐藤さんは、彼が以前から尊敬していた人で、様々な活動をこなしていることで有名だった。彼の成功の秘訣を尋ねると、佐藤さんはにっこりと笑いながらこう言った。

「健二さん、僕はね、完璧を求めるあまりに何もできなくなるのはもったいないと思っているんです。『一か０か』で考えるのはやめて、まずは『ちょっとだけ』やってみることが大事なんですよ。」

その言葉は健二の心に深く刻まれた。彼は、その後の日々で、少しずつでも何かを始めることを決意した。「やるかやらないか」ではなく、「ちょっとだけでもやってみる」という考え方が、新たな道を開いてくれるかもしれないと感じたのだ。

まず健二が始めたのは、毎日のジョギングだった。彼は以前から運動不足を感じていたが、「1時間走らなければ意味がない」と思って始めるのを躊躇していた。しかし、佐藤さんの言葉を思い出し、最初はたったの5分間だけでも走ってみることにした。初めはそれすらも辛かったが、次第に5分のジョギングが10分、15分と増えていった。2か月後には、健二は毎朝30分のジョギングを習慣として取り入れることができるようになった。

次に健二が取り組んだのは、家族とのコミュニケーションの改善だった。以前は忙しさを理由に、家族との時間が取れなかったが、「一日1分だけでも話す時間を作ろう」と決めた。最初は簡単な会話から始めたが、次第に家族との対話が増え、彼らとの関係が深まっていった。家族との時間を持つことで、健二自身の心も安らいだ。

さらに、趣味の音楽にも挑戦することにした。学生時代にギターを弾いていた健二は、再びギターを取り出し、1日に10分だけでも練習をすることにした。昔の曲を思い出しながら、少しずつ腕前を取り戻していく楽しさを感じることができた。やがて、週に一度の小さなライブイベントに参加することもできるようになり、自信を取り戻すことができた。

健二は、これらの「ちょっとだけ」の積み重ねが、自分にどれほど大きな変化をもたらしたのかを実感した。完璧を求めて全てを一度にこなそうとするのではなく、小さな一歩を踏み出すことで、自分の生活が確実に豊かになったのだ。

「一か０か」ではなく「ちょっとだけ」やってみることが、いかに大切なのかを学んだ健二は、他の人たちにもその考え方を広めるようになった。彼は職場で同僚に、家庭で家族に、そして地域のコミュニティでも「少しずつでも始めてみること」の大切さを伝えた。

健二自身の変化を見て、多くの人々が彼の言葉に耳を傾けるようになり、周囲にも少しずつ良い影響を与えていった。彼の人生が少しずつ変わり始めたその瞬間こそが、健二にとっての大きな成功だった。