聖夜の反逆

聖夜の反逆

聖夜の反逆

「わたしルイ・ド・ブラー王子は、クリスティーヌ・ド・アグベニューとの婚約を破棄する」

煌びやかなシャンデリアが天井から下がり、豪華な装飾が施された大広間。クリスマスの祝宴は最高潮に達していた。楽団の奏でる優雅な音楽、美食の数々、そしてきらびやかなドレスを身にまとった貴婦人たち。誰もがこの幸福なひとときを謳歌しているはずだった。しかし、この宴の中心にいるはずのルイ・ド・ブラー王子の口から発せられた言葉は、その空気を一瞬で凍りつかせた。

そもそも現代のクリスマスと言えば、12月25日のことを指すが、中世ヨーロッパでは12月25日から1月5日の夜までの12日間を指した。晩餐会の日にちも地域によって異なり、初日の12月25日に大きな晩餐会を開く地域もあったが、12日目の1月5日に食事会をする地域もあったという。この夜は、まさにその12日目の夜だった。

ルイ王子の婚約者、クリスティーヌ・ド・アグベニューは、その言葉を信じられない思いで聞いた。彼女は美しく聡明で、誰からも愛される女性だった。ルイ王子との婚約は、王国全体が祝福するものであり、誰もが二人の結婚を心待ちにしていた。それなのに、なぜ今、この場で、婚約破棄などという言葉が飛び出すのだろうか。

クリスティーヌは、ルイ王子の顔をじっと見つめた。彼の表情は硬く、目は冷たく輝いている。冗談を言っているようには見えない。クリスティーヌの心臓は激しく鼓動し、全身が冷たくなっていくのを感じた。

「ルイ王子…それは…どういう意味でしょうか？」クリスティーヌは、震える声で尋ねた。

ルイ王子は、クリスティーヌを冷たい目で見下ろした。「言葉通りの意味だ、クリスティーヌ。私はお前との婚約を破棄する。お前は私に相応しくない。」

広間は静まり返り、人々の視線がクリスティーヌに集中した。彼女は屈辱と怒りで顔を赤く染めた。まさかこのような形で、しかも大勢の人々の前で婚約破棄を言い渡されるとは、夢にも思っていなかった。

クリスティーヌは、深呼吸をして冷静さを取り戻そうとした。彼女はただの貴族の娘ではない。王位継承権を持つ、王国の重要な人物の一人なのだ。このような場で取り乱すわけにはいかない。

「喜んで婚約破棄、受け入れましょう。」クリスティーヌは、毅然とした態度で言った。「ということで、即刻このものを幽閉せよ。」

その言葉に、ルイ王子は驚愕の表情を浮かべた。「なっ…何を…？」

「お忘れでしょうか王子、王位継承者はあなたではなく、わたくしクリスティーヌだということを。」クリスティーヌは、冷たい笑みを浮かべた。「この婚約は、王国の安寧のために結ばれたものでした。あなたがそれを一方的に破棄するというのであれば、王家への反逆とみなさざるを得ません。そして、その責任は当然、あなたにあります。」

広間は再びざわめき始めた。貴族たちは、クリスティーヌの言葉に驚き、ひそひそと話し合っている。ルイ王子は、クリスティーヌの言葉に完全に動揺していた。彼は、クリスティーヌがこのような反撃に出るとは予想していなかったのだ。

「そ、そんな…私はただ…」ルイ王子は言葉を濁した。

「ただ？ただ何です？他に愛する女性ができた、とでも言うつもりですか？それならば、なおのこと許せません。」クリスティーヌは、さらに言葉を続けた。「王位継承者であるわたくしとの婚約を、個人的な理由で破棄するなど、王国の秩序を著しく乱す行為です。これは、断じて見過ごすことはできません。」

クリスティーヌは、周囲の近衛兵に目をやった。「聞こえませんでしたか？この不敬者を幽閉しなさい！」

近衛兵たちは、躊躇しながらもクリスティーヌの命令に従い、ルイ王子を取り押さえようとした。ルイ王子は抵抗しようとしたが、多勢に無勢で、あっという間に捕らえられてしまった。

広間は騒然となった。人々は、何が起こったのか理解できずに混乱している。クリスティーヌは、その様子を冷ややかに見下ろしていた。

「この件については、後日改めて王家から声明を発表いたします。」クリスティーヌは、落ち着いた声で言った。「今夜は、これにてお開きといたします。」

クリスティーヌは、優雅に広間を後にした。彼女の背後では、ルイ王子の叫び声が聞こえていたが、彼女はそれを気にも留めなかった。

自室に戻ったクリスティーヌは、窓の外を見つめた。夜空には、冷たい月が輝いている。彼女は、今日の出来事を思い返していた。屈辱と怒り、そして少しの悲しみ。様々な感情が入り混じっていた。

しかし、彼女は後悔していなかった。ルイ王子のような男と結婚するなど、考えられない。彼女は、自分の誇りと、王国の未来のために、正しい選択をしたのだ。

クリスティーヌは、深く息を吐き出した。そして、決意を新たにした。これからは、王位継承者として、王国のために尽くしていく。ルイ王子のことは、過去の出来事として、忘れ去るだろう。彼女の人生は、これから始まるのだ。

この後、クリスティーヌは王位を継承し、聡明な女王として王国を治めることになります。ルイ王子は、幽閉された後、王位継承権を剥奪され、歴史の表舞台から姿を消しました。この一件は、王国史において、クリスティーヌ女王の毅然とした態度を示す象徴的な出来事として、長く語り継がれることとなりました。

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この物語はフィクションです。中世ヨーロッパの社会や文化、王位継承の仕組みなど、史実と異なる部分が含まれている可能性があります。あくまでエンターテイメントとしてお楽しみください。