妻と愛人と家族

いつもありがとう

「いつもありがとう」

秋の風が心地よく吹くある日、由美と健二は自宅のリビングで静かに過ごしていた。窓の外には色づいた木々が広がり、心が穏やかになる風景が広がっていた。しかし、二人の心の中には、秋の風景には似つかわしくない微妙な緊張感が漂っていた。

由美と健二は結婚して15年が経ち、これまでの年月の中で様々なことがあった。結婚当初は互いに新鮮な感情を抱きながらも、次第に日常の細かな不満が積もり、互いの心に暗い影を落とすようになっていた。特に、最近の仕事のストレスや家庭内の小さなトラブルが重なり、二人の関係にも影響を及ぼしていた。

「今日も疲れたわ」と由美が言うと、健二は疲れた表情をしていた。「僕もだよ。仕事が忙しくて、ストレスが溜まっている。」

会話は短く、互いの気持ちを理解し合うことはできず、ただの日常の繰り返しが続いていた。二人の間には、長い間積もった不満があったが、どう伝えたらよいのか、どこから始めたらよいのか分からずにいた。

ある夜、由美はコロサイ書の一節を読み返していた。「不満の理由がある場合でも，引き続き互いに忍び……合いなさい。」（コロサイ 3:13）その言葉が、彼女の心に深く刺さった。彼女はこれまでの不満や怒りが、ただ自分たちの関係を悪化させているだけだと気づいた。

翌朝、由美は心を決めて、健二に話しかけることにした。彼女は言葉を選びながら、穏やかに話し始めた。「健二、最近、私たちの間にいろいろな問題があって、互いに不満を抱いていることが多いけれど、どうしても話さなければいけないと思うの。」

健二は少し驚いた様子で、由美の話を静かに聞いた。「どうしたの？」

「私たちの関係が少しずつぎくしゃくしている気がする。私たちが互いに不満を抱えながらも、それを話し合わずにいると、どんどん距離ができてしまうと思う。最近、私はあなたに感謝の気持ちを伝えられていないし、それが私の中で不安になっているの。」

健二は黙って聞いていたが、その言葉に心を動かされた。彼もまた、自分が由美に対して感謝の気持ちを表すことを忘れていたことを認めざるを得なかった。「由美、ありがとう。君の言葉を聞いて、僕も自分がどうしているのかを見直さなければと思った。僕も君に感謝しているし、それをもっとちゃんと伝えたい。」

その後、二人は互いの気持ちを理解し合うために、少しずつ会話を増やし、感謝の気持ちを表現するように心がけた。朝に「おはよう」と一緒に言い合い、仕事から帰った後に「お疲れ様」と言い合うことで、互いに感謝の気持ちを示すことができた。小さなことではあったが、その積み重ねが二人の関係を少しずつ修復していった。

秋の終わりには、由美と健二は再び温かな関係を取り戻していた。互いに感謝し合うことで、日々のストレスや小さな不満が和らぎ、二人の絆は以前よりも強くなっていた。彼らは、コロサイ書の言葉が示す通り、互いに忍び合い、感謝の気持ちを持ち続けることで、より幸せな結婚生活を送ることができた。

風が冷たくなり、街の灯りが輝く頃、由美と健二は、心から感謝の気持ちを込めてお互いに微笑み合っていた。それが、二人の愛と尊重の証であり、今後も続くであろう幸せな日々の礎となった。