妻と愛人と家族

春秋花壇

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見えなかった真実

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「見えなかった真実」

「は?どういうことだ?」
夫の顔がみるみる赤くなっていく。ようやく私の話に耳を傾けてくれた夫に、亡くなった父は母の再婚相手であることを告げた。当時小学生だった私を気遣って、父と母は籍を入れなかったため、戸籍上は他人のままだったのだ。

私が父と暮らし始めて数年後、母が突然の事故で亡くなった。それでも父は、ただの他人である私を見捨てずに育ててくれた。愛情深く、心からの家族だった。

「じゃ、じゃあ、戸籍上は……法律的には、お前に遺産の相続権はないのか!?」と焦り出す夫。
「ええ、そういうことになるわ。でもね、」と私が言いかけるも、夫は話を遮るように怒鳴り始めた。

「よくも俺を騙したな! ふざけんじゃねぇよ!ずっとこの日を待っていたのに!遺産を相続できないなんて!」
夫の声が響き渡る。「お前が資産家の娘だから、遺産相続をあてにして結婚したんだぞ!? この役立たず女め!すぐに離婚だ!」

私は呆然とした。これまでずっと愛されていると思っていたのに。夫の言葉は鋭く、心をえぐった。彼が私に対して抱いていた感情は愛などではなく、ただの金目当てだったのだ。涙が止まらなかった。

離婚はすぐに成立した。私には未練はなかった。結婚が幻想だったことに気づいた瞬間、私の心には何の感情も残っていなかった。

半年後、沖縄旅行で偶然元夫に再会することになった。若い女性を連れていた彼は、新婚旅行だと嬉しそうに言った。「新しい妻です。前から俺の後輩だったんだけど、お前のせいで予定が変わったから本妻にしてやったんだ」――私の存在などとうに忘れたかのようだった。

「お前が遺産を少しでも相続していたら、離婚せずにいてやったのに」元夫はそう言い放つ。私は彼の愚かさに哀れさえ覚えた。「彼女と幸せにしていても、別に何も感じないわ」私は淡々と返す。「だって、私には父が残してくれた10億円があるから」

元夫の顔が変わった。「は?嘘だろ、お前……」
「父は遺産を相続させられないことを知っていたから、『遺贈』という形で財産を残してくれたのよ。『相続』ではなく『遺贈』ね。つまり、あんたが勘違いして離婚を決めたってだけの話」
私は言いたかったことをすべて言い終えた。元夫は私が嘘をついたと激怒していたが、冷静に考えれば、彼自身が勝手に私の遺産を想像していたのだ。

「だいたい、あなたが離婚を切り出したんでしょ? 私は何度も話そうとしたのに、あんたが全部遮って自分で勝手に決めつけたんじゃない。遺贈のことを話す必要なんてどこにもなかったわ」

元夫はうなだれて膝をつく。「くそ……どうして俺がこんな目に……」

彼の今の妻との不倫は、私と結婚していた頃から続いていたことがSNSを通して発覚した。元夫は開き直り、私に2人の親密な写真を見せつけてきた。それだけでなく、彼らが不倫していた証拠を残しているとは思わなかったのか、会社の出張と偽って旅行に行っていたことまで、堂々と投稿していた。私は時効になる前に離婚の慰謝料に強い弁護士に依頼し、元夫とその後妻に慰謝料を請求した。
弁護士には糸目をつけず、すぐに現金一括で慰謝料を回収してもらった。

父が生前にすべての資産を整えてくれたおかげで、私は何も揉めることなく生きていける。父には感謝しかない。そして、私は誠実な父の教えを忘れずに、これからも誠実に生きていきたいと心に誓った。










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