妻と愛人と家族

春秋花壇

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退職二日目の家族との会話

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退職二日目の家族との会話

家族が集まると、庭には楽しい雰囲気が漂い始めた。バーベキューのグリルからは、美味しそうな香りが立ち込め、正夫は嬉しそうに食材を次々と焼いていた。子供たちが到着し、一緒に過ごす時間が楽しいものになることを期待している京子も、その準備に追われながら微笑んでいた。

「お父さん、退職おめでとう!今日は楽しみにしてたよ」

と、長女の美咲が笑顔で言った。彼女は久しぶりに家族が揃うこの機会を心から楽しみにしていた。

「ありがとう、美咲。君たちが集まってくれて、本当にうれしいよ」

正夫は感慨深げに答えた。

「退職してからは、こうして皆と過ごせる時間が増えると思うと、楽しみで仕方ないんだ」

「お父さん、最近は何か新しい趣味を見つけたの?」

次男の優斗が興味深そうに尋ねた。

「仕事を辞めてから、暇になっちゃったりしない?」

「実はね、優斗」と正夫はニコニコしながら答えた。

「ラジオ体操や庭いじりを始めてみたんだ。それに、毎日少しずつ料理にも挑戦してる。今日は特に頑張ってみたよ」

「おー、今日は特別な日だから期待してるよ!」

美咲がウインクして、正夫にプレッシャーをかけるような笑顔を見せた。

「お父さん、私も手伝うよ。どうやって焼くのか教えてね」

と、末っ子の菜々が積極的にグリルの前にやってきた。

「ありがとう、菜々ちゃん。これがやり方だよ」

と正夫は菜々に焼き加減や調理方法を教えながら、一緒に作業を進めていった。

「君が手伝ってくれると、さらに美味しくなるね」

京子はその様子を見守りながら、家族が楽しそうに会話する中で、自分もリラックスしてきた。長男の智也がふと、家族全員に向かって話しかけた。

「お母さん、最近はどうしてるの?お父さんが退職してから、何か変わったことある?」智也の質問に、京子は少し考え込みながら答えた。

「そうね、最近はお料理や家事が少し楽になって、少しずつ自分の時間が持てるようになってきたわ」

京子は微笑んで答えた。

「でも、まだ新しい生活に馴染むのに時間がかかるかもしれないわね」

「それなら、これからはもっとお互いのことを理解し合って、協力しながら過ごしていこうね」

美咲が真剣な表情で提案した。

「うん、その通りだね」

京子は頷きながら、家族との未来について前向きな気持ちを抱くことができた。

「お互いに支え合いながら、新しい生活を楽しんでいきましょう」

食事が進むにつれて、会話もますます弾んできた。正夫が特製のズワイの焼きガニを取り分けながら、

「これが一番のお気に入りなんだ。ぜひ味わってみてほしい」

と皆に勧めた。家族はその美味しさに驚き、感謝の言葉が飛び交った。

「本当に美味しいね、お父さん。これからはもっと料理を教えてほしいな」

と優斗が言い、正夫は嬉しそうに

「もちろんだよ、優斗。どんな料理にも挑戦してみるつもりさ」

と答えた。

バーベキューの後、デザートのシャインマスカットが登場すると、皆の笑顔がさらに広がった。京子もその光景を見ながら、幸せな気持ちを感じることができた。

「これたかいよなー」

夜が更けると、家族はリビングに集まり、退職祝いのプレゼントを開ける時間となった。正夫は皆からの心温まるプレゼントに感激し、家族一人一人に感謝の気持ちを伝えた。京子もまた、家族との絆を再確認し、これからの生活に対する希望を抱いた。

「これからは、一緒に楽しい時間を過ごしていこうね」

と正夫が言い、京子も心から同意した。

「お互いに支え合いながら、新しい一歩を踏み出そう」

家族の笑い声が響く中で、京子は新しい生活への期待とともに、前向きな気持ちを新たにした。正夫が退職後に変わろうとする姿勢と、家族との絆が深まったこの夜は、心に残る特別な一夜となった。









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