妻と愛人と家族

春秋花壇

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風の贈り物

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風の贈り物

田中家の居間は、静かでありながらも温かい雰囲気が漂っていた。窓の外からは、穏やかな夏の風が流れ込み、カーテンを優しく揺らしている。椅子に座ったまま、70歳の田中誠一は、目を閉じて孫の遊ぶ声を聞いていた。

「おじいちゃん、おじいちゃん!」と叫びながら、6歳の孫、亮太が駆け寄ってきた。誠一はゆっくりと目を開け、にっこりと笑った。「どうしたんだ、亮太?」

「このおもちゃ、どうやって作ったの?」亮太は手に持っていた木製の車を誠一に見せた。誠一はそのおもちゃを見て、遠い昔の記憶に浸った。

「これはね、亮太のお父さんが君ぐらいの歳のときに、一緒に作ったんだよ。」誠一は柔らかい声で答えた。「お父さんも、これでたくさん遊んだんだ。」

亮太の目が輝き、誠一の言葉に耳を傾けた。「おじいちゃん、もっと教えて!」

誠一は微笑み、孫の手を取って一緒に椅子に座った。「よし、今日は特別なお話をしようか。」彼は言って、亮太の手をぎゅっと握った。

「昔、君のお父さんがまだ小さかった頃、僕たちは一緒に森の中で木を探しに行ったんだ。その時、木の幹に不思議な模様があってね、それを見たとき、お父さんは『この木で何か作ろう!』って言ったんだ。」

亮太は興味津々で、誠一の話に聞き入った。「それから、僕たちはその木を切って、この車を作ったんだ。お父さんはすごく喜んで、毎日この車で遊んだんだよ。」

話の中で、誠一は孫に対して伝えたいことを見つけた。時間の経過と共に、物が持つ価値と共に、思い出もまた宝物となることを。彼は孫に向かって静かに言った。「亮太、物というのはただの物じゃない。そこに込められた思い出や、誰かと一緒に過ごした時間が、その物を特別なものにするんだ。」

亮太はおじいちゃんの言葉に深く考え込んだ。彼は車を見つめながら、おじいちゃんとお父さんの絆を感じた。「じゃあ、おじいちゃん、僕もお父さんと一緒に何か作ってみたい!」

誠一は孫の決意を聞いて、心が温かくなった。「それはいい考えだ。君もお父さんと一緒に、君たちだけの特別な思い出を作るんだ。」

その日から、亮太とお父さんは毎週末に新しいプロジェクトに取り組むようになった。最初は簡単な木の小物から始まり、やがては亮太の部屋に飾る大きな棚まで作り上げた。亮太は誠一の言葉を胸に刻みながら、毎回のプロジェクトを楽しみにしていた。

数年が経ち、誠一は天寿を全うしたが、彼の教えは亮太の心に深く刻まれていた。亮太は大人になり、自分の子供たちと一緒に新しい思い出を作り続けた。彼の家には、祖父と父と共に作り上げた数々の作品が誇らしげに飾られており、それぞれが家族の絆と愛を象徴していた。

誠一が残したものは、ただの木の車ではなかった。それは、家族と共に過ごした時間と思い出、そして愛の形を示す贈り物だったのだ。亮太はその贈り物を、次の世代へと伝え続ける決意を胸に、新たな物語を紡いでいった。
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