妻と愛人と家族

「張緑水の呪い」

「張緑水の呪い」

朝鮮の冷たい風が吹き荒れる夜、張緑水は宮廷の中庭に立っていた。彼女の美しい声は風に乗り、遠くまで響き渡った。燕山君の目に留まったのも、その声の美しさ故だった。奴隷の身分から宮廷へと引き上げられた彼女は、まさにリアルシンデレラのような存在だった。

しかし、その栄光の裏には深い闇が潜んでいた。張緑水はその美貌と声を武器に、権力の座を手に入れると共に、暴君としての名声を得ることになる。

「この宮廷に、私の声が響かない場所などないわ」と、張緑水は冷たく微笑んだ。

彼女はその美しい声で、燕山君の心を掴み、彼を操るようになった。燕山君は張緑水を溺愛し、彼女の言うことなら何でも聞いた。彼女のために豪邸を建てるため、人々の家は次々と壊され、その地に壮麗な宮殿が建てられた。

「これは私のための家よ。これからも多くの人々が私にひれ伏すことになるのだから」

張緑水の声は冷酷さを帯びていた。彼女は宮女たちに厳しい罰を与え、自分の服の裾を踏んだ者を容赦なく打ち首にし、その首をさらし者にした。彼女の一族は無理やり要職に就けられ、彼らは贅沢三昧の日々を送った。

「増税が必要だわ。私たちが贅沢を楽しむためには、もっと多くの金が必要なのだから」

張緑水と燕山君は、重税を課し、苛烈な取り立てを行った。逆らう者は次々と処刑され、その数は日に日に増えていった。燕山君もまた、宦官を重用し、士大夫層を弾圧し続けた。王宮では贅沢の限りを尽くし、民衆の苦しみにはまるで無関心だった。

しかし、その暴政は長くは続かなかった。反乱の火種は次第に大きくなり、ついにはクーデターが勃発した。燕山君は失脚し、王位から追われた。彼の号は「君」とされ、その名は歴史に悪名として刻まれた。

張緑水もまた、その報いを受けることになる。彼女は捕らえられ、その美しい声も無力だった。彼女の処刑が決まると、人々は彼女への恨みを爆発させた。

処刑の日、張緑水は群衆の前に立たされた。彼女の美貌はもはや誰も魅了しなかった。人々は彼女に向かって唾を吐き、石を投げつけた。その数はあまりにも多く、彼女の遺体はやがて見えなくなり、石の山ができるほどだった。

「この世に私を憎む者などいない。私の声がすべてを支配するのだから」

最期の瞬間まで、張緑水はその信念を捨てなかった。しかし、その信念は無情にも打ち砕かれた。彼女の美しい声も、権力も、すべては砂の城のように崩れ去った。

張緑水の死後、彼女の名前は朝鮮史上最悪の悪女として語り継がれることとなった。彼女の豪邸もまた、時の流れと共に崩れ去り、かつての栄光は見る影もなくなった。

しかし、彼女の美しい声は、今もなお風に乗り、夜の闇に響き渡るかのようだった。それは、彼女が遺した呪いのように。人々はその声を聞くたびに、彼女の悪行とその悲惨な最期を思い出すのだった。

張緑水の物語は、権力と美貌がもたらす一時の栄光が、いかに脆いものであるかを物語っている。彼女の美しい声も、最期には誰の心にも届かなかった。彼女の名は、永遠に朝鮮史上最悪の悪女として記憶されることだろう。