妻と愛人と家族

春秋花壇

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魔女と呼ばれた女ラ・ヴォワザン

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魔女と呼ばれた女ラ・ヴォワザン

ルイ14世時代のフランス、その華麗な宮廷の裏には暗い陰謀と毒殺事件が渦巻いていた。その中心にいたのが、魔女と呼ばれた女ラ・ヴォワザンである。彼女は数え切れぬ人々を毒殺したとされ、その名は恐怖と謎に包まれている。

ラ・ヴォワザン、本名カトリーヌ・モンヴォワザンは、表向きは気のいい婦人であり、パリの社交界では富豪の妻として人々をよく晩餐に招待することで有名だった。彼女の家では頻繁にパーティーが開かれ、貴族や裕福な市民たちが集まっては、彼女の占いを楽しんだ。その占いはよく当たると評判で、多くの人々が彼女の助言を求めて訪れた。

しかし、豪商だった夫が亡くなると風向きが変わった。経済的に困窮した彼女は、助産師として働きながらも、裏では堕胎業を営むようになった。さらに、毒薬の製造・販売を手掛けるようになり、その商売は瞬く間に広がっていった。彼女の毒薬は、確実に人を死に至らしめるもので、その効果は広く知られていた。

ラ・ヴォワザンのもとには、様々な理由で人を殺したいと考える者たちが訪れた。嫉妬に燃える妻、遺産を手に入れたい相続人、政敵を排除したい貴族。その中には、王侯貴族たちも含まれていた。彼女はその要求に応じ、毒薬を提供し、殺人の手助けをしていたのである。

やがて、ラ・ヴォワザンの販売した毒薬を使って殺人をした者が捕まり、彼女も連座して捕まることとなった。彼女は壮絶な拷問にかけられ、その結果、自宅において黒魔術に昏倒したことや、その顧客に王侯貴族たちが関与していることを自白した。この自白は王宮を騒然とさせ、その後、彼女は魔女として火刑に処されることとなった。

しかし、ラ・ヴォワザンの処刑後も、その影響は消えなかった。生き残った彼女の娘は、顧客の中にはルイ14世の愛人であったモンテスパン侯爵夫人もいたことを証言し、これが一大スキャンダルとなった。騒ぎを鎮静化させたいルイ14世は、この事件についての一切の記録を破棄させ、歴史の闇に葬ろうとした。

ラ・ヴォワザンの物語は、彼女が行ったとされる毒殺事件が、実際には王侯貴族たちの陰謀であり、彼女自身もまたスケープゴートにされたのではないかという疑念を抱かせる。黒魔術に関する告発も、当時のヨーロッパではでっち上げの罪で裁くことが日常茶飯事であり、その信憑性は疑わしい。

しかし、毒物の販売に関しては事実であり、その点で彼女が悪女であることは間違いない。彼女の物語は、富と権力のために何でもする人々の姿を浮き彫りにし、その影で翻弄される者たちの悲劇を物語っている。

ラ・ヴォワザンの処刑から数十年後、パリの街はその影響から立ち直りつつあったが、彼女の名前は今でも恐怖と謎の象徴として語り継がれている。彼女の家は焼き払われ、その跡地は新しい建物が建てられたが、夜になると時折、ラ・ヴォワザンの幽霊が現れるという噂が絶えなかった。

ある晩、若い女性がその跡地を通りかかった。彼女は急いで家に帰る途中で、ふと足を止めた。風が不気味に吹き抜け、彼女の耳に囁くような声が聞こえた。振り返ると、そこには黒い影が立っていた。それはまるでラ・ヴォワザンが帰ってきたかのようだった。

女性は恐怖で震えながらも、その影に向かって言った。「あなたはラ・ヴォワザンですか?」

影は静かに頷いた。女性はさらに震えながら、「あなたは本当に多くの人を毒殺したのですか?」

影は再び頷き、そして消えた。その夜、女性はラ・ヴォワザンの恐怖を体験し、彼女の物語を決して忘れないと誓った。

ラ・ヴォワザンの物語は、恐怖と謎に満ちたものであり、その影響は今でも人々の心に残っている。彼女の名は、永遠に歴史の中で語り継がれるだろう。







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