お金持ちごっこ

富裕層の定義

『富裕層の定義』

日向（ひなた）ひまりは、錬金術の練習を終えたあと、少し気分転換に村の図書館へ出かけた。そこには彼女の大好きな本のほかに、最近増えたという経済学や哲学の棚がある。目についた一冊のタイトルに引き寄せられるように手を伸ばした。

『富裕層の実態とその定義』

錬金術師である彼女にとって、「富」とは材料を揃えたり、調合の結果を売り払ったりする中での現実的な課題でもあった。本を開くと、こんな一文が目に飛び込んできた。

「富裕層や超富裕層は保有する資産額で定義され、1億円から5億円未満を富裕層、5億円以上を超富裕層と呼ぶ。また、一般的に年収が2,000万円以上の場合も富裕層とみなされる。」

ひまりは眉をひそめた。「1億円って、何それ？どうやったらそんなお金が貯まるの？」彼女の一ヶ月の収入は、精々数百シムリオンだ。工房で薬を売ったり、依頼された調合をこなしたりして稼いでいるが、それでも贅沢はできない。

その夜、彼女は工房の隅で薄明かりのランプを灯しながら独り言を始めた。
「1億円かぁ……。もしそんなお金があったら、最高級の材料を使って、一度も失敗しない錬金術を試してみたいな。」

ひまりの隣には、彼女の友人である妖精のカンナがひらひらと羽を揺らしながら座っていた。
「でも、ひまり。お金があれば幸せってわけでもないんじゃない？」
カンナは微笑みながら、ひまりが作りかけたポーションを眺める。

「幸せ……？」ひまりは思わずカンナを見た。「でも、お金がないと生活できないよね。富裕層とか超富裕層になれば、もっと自由にいろんなことができるんじゃない？」

カンナは首をかしげた。「そうかな？この村にも富裕層はいるけど、みんなが幸せそうに見えるわけじゃないよ。」

翌日、ひまりは村の商人や地主に話を聞きに行くことにした。
商人のサミュエルはこう言った。
「お金があると便利だよ。何でも買えるし、好きな場所に行ける。でもね、そのお金を守るために、いつも不安なんだよ。盗まれたり、なくしたりしないかって。」

地主のレベッカはこう言った。
「私は土地をたくさん持っているけど、それを管理するのが大変なの。お金があっても、それ以上の責任がついてくるのよ。」

そして、ひまりが訪れた最後の場所は、村の片隅に住む貧しい老人夫婦の家だった。二人はわずかな収入で慎ましい生活を送っているが、いつも笑顔を絶やさない。
「お金持ちじゃないけどね、私たちは幸せだよ。庭で育てたハーブとひまりちゃんの薬のおかげで、毎日元気に暮らせるんだもの。」

その晩、ひまりは再び工房でノートを開いた。
「富裕層って、ただお金を持っているだけじゃないんだね。それぞれの事情があって、幸せも簡単には手に入らないんだ。」

彼女はランプの明かりに照らされるポーションを見つめ、つぶやいた。
「私はまだ富裕層には遠いけど、自分の力で誰かを助けられる。それが私にとっての“富”なのかもしれないな。」

ひまりの冒険は、錬金術だけでなく、心の豊かさを求める旅でもあった。彼女の小さな工房の窓から、月明かりが優しく差し込んでいた。