お金持ちごっこ

ポンジスキームの罠

「ポンジスキームの罠」

香織は、まだ社会人2年目の若いOLだった。毎日の仕事に追われる日々、同僚たちと会話する中で、ふと耳にした「投資の話」が気になり始めた。それは、香織の会社に勤める経理部の先輩、岩田が持ちかけてきた話だった。

「香織ちゃん、投資に興味はないか？ちょっと儲かる方法を知っているんだ。」

岩田は40代半ばの、どこか落ち着いた雰囲気の男性だ。仕事ができる上に、社内でも一目置かれている存在で、香織も何度かお世話になったことがある。最初はその言葉を軽く聞き流していたが、岩田が熱心に続けてきた話に少しずつ引き込まれていった。

「今なら少額でも始められるし、短期間でかなりのリターンが期待できるんだ。投資っていうと難しそうに思えるかもしれないけど、この方法なら誰でもできるんだよ。」

香織は、まだ投資の経験がなかった。ただ、最近お金のことを真剣に考え始めたばかりだった。将来に備えて貯金を増やさなければと思う一方で、貯金だけでは増えないことを感じていた。そんなとき、岩田の言葉は心に響いた。

「どうしても気になるなら、少しだけ試してみてもいいかもしれない。」と岩田は微笑みながら言った。

「うーん、少しだけなら……」と香織は答えると、岩田はすぐにスマートフォンを取り出し、画面を見せてきた。そこには、ある「投資案件」の詳細が表示されていた。リターンの大きさ、リスクの低さ、そして何より、初心者でも簡単に始められるという説明が並んでいた。

香織はその案件に惹かれた。少額から始めて、すぐに利益が出るという言葉に、どこか非現実的な期待を抱いていた。しかし、岩田の説明は非常に説得力があり、香織はその「投資案件」に参加することを決めた。

最初は数万円だった。それでも、最初に受け取った報酬は予想以上だった。「こんなに簡単にお金が増えるなんて」と香織は驚き、興奮した気持ちを抑えることができなかった。

「次はもっと大きく行ってみたら？」と岩田に勧められ、香織は次第に投資額を増やしていった。最初は小さな額で始めたが、次第に数十万円、そしてさらに大きな額へと。香織は、次々と入ってくる利益に安心し、次第に自分がどれだけ危険なことに手を出しているのかを見失っていった。

だが、香織の中で次第に不安が募り始めた。ある日、気になっていたことを岩田に尋ねてみた。

「でも、あの投資って、どうしてこんなにリスクが低いんですか？普通、リスクがあるんじゃないですか？」

岩田は笑って答えた。「それが、このシステムのすごいところなんだよ。投資家が次々と入ってきて、そのお金で最初に入った人にリターンを渡す、いわゆる『ポンジスキーム』だよ。」

香織はその言葉を聞いて、思わず固まった。「ポンジスキーム？」それは確か、どこかで聞いたことがある言葉だったが、すぐにはピンとこなかった。

「つまり、参加者が増えるたびに最初に投資した人に利益を渡し、さらに新しい参加者が集まるとそのお金で最初の参加者に返すという仕組みだ。」岩田は説明したが、その目にはどこか冷徹な輝きがあった。

香織はその時、何かがおかしいと感じた。確かに、リスクが低いという説明には疑問があったが、実際に自分の口座に振り込まれるお金を見ていたから、なかなか信じられなかった。しかし、心の奥底で不安が膨らんでいった。

数週間後、香織はついにその恐ろしい現実を目の当たりにすることとなった。ある日、突然、岩田から連絡が来た。

「香織、今すぐにお金を引き出しておいた方がいい。」

香織が慌てて取引先に連絡を取ったが、すでにその「投資案件」は閉鎖されていた。そして、数日後、ニュースで大々的に報じられた。「新たなポンジスキーム、数百人が被害を受ける」—その中には、香織も含まれていた。

香織は、愕然とした気持ちでその事実を受け入れた。あれだけ簡単に儲かるはずの投資話が、実際には誰かが仕組んだ詐欺だったのだ。香織はその後、岩田と連絡を取ることはなかった。しかし、今でも時折、その冷徹な笑顔が頭をよぎる。

ポンジスキームに手を出したことで、香織は大切なことを学んだ。それは、短期的な利益を追求することがどれほど危険であるか、そしてお金には必ず裏があることを忘れてはならないということだ。

そして、香織は再び、投資やお金に関する知識を深めることを決意した。それは、これからの人生を守るために必要な、最も重要な教訓だった。

おわり