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春秋花壇

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家族の小さな楽園

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「家族の小さな楽園」

山田家は準富裕層に属する家庭だった。夫の健太は大手企業に勤め、妻の真由美はフリーランスのデザイナーとして働いていた。彼らの資産は5000万円を超え、1億円には少し届かない。しかし、裕福さを誇るような派手な生活ではなく、どちらかといえば控えめで質素な日常を楽しむことが彼らのスタイルだった。

そんな山田家が最近始めた新しい趣味が、家族での貸農園での農作業だった。

週末になると、彼らは自宅から車で30分ほど離れた小さな貸農園に向かう。広さはそれほど大きくはないが、家庭菜園を楽しむには十分なスペースがあった。真由美が最初にこのアイデアを思いついたのは、日々の忙しい生活から少しでもリフレッシュできる場所を探していたからだ。

「せっかくだし、週末は自然の中で過ごしたいわ。子供たちにもいい経験になるだろうし」と、真由美は健太に提案した。

最初、健太は少し戸惑っていた。「俺たちに農作業なんてできるのかな?体力的にも大丈夫か?」と不安を口にしたが、真由美の情熱に押される形で、試しにやってみることにした。

彼らの貸農園には、様々な野菜の種や苗が揃っていた。トマト、キュウリ、ナス、ジャガイモ。どれも家族みんなが大好きな野菜だった。山田家の子供たち、長男の翔太と次女の美咲も、最初は興味半分でついてきたものの、実際に土を触り、苗を植える作業を始めると、すぐに夢中になった。

「ねえ、パパ!これ、本当に大きくなるの?」と、美咲が嬉しそうに尋ねた。

「もちろんだよ。でも、ちゃんと水やりをして、毎週世話をしないとダメなんだぞ」と健太は笑いながら答えた。

毎週末、山田家は貸農園に向かい、家族で楽しい時間を過ごすようになった。翔太は植物が成長する姿に感動し、美咲は花が咲くと大喜びする。健太と真由美も、最初は不慣れだった農作業に徐々に慣れ、今では野菜の収穫が楽しみのひとつとなっていた。

ある日、彼らは農園で自分たちが育てたキュウリを収穫することになった。大きく成長したキュウリを見つけた美咲は、興奮した様子でそれを引き抜いた。

「見て、パパ!こんなに大きくなったよ!」と、美咲が嬉しそうに叫ぶ。

「すごいな!お前が毎週ちゃんと水をやってくれたおかげだよ」と健太は娘を褒めた。

その夜、山田家では自家製のサラダが食卓に並んだ。自分たちが育てた野菜を食べるという体験は、家族全員にとって特別な喜びだった。食卓を囲んで、みんなが笑顔で食事をする姿を見て、真由美は心から幸せを感じていた。

「やっぱり、自分で育てたものを食べるのは最高ね」と、真由美は微笑んだ。

「そうだな。こんなに美味しいキュウリ、スーパーじゃ絶対に買えないよ」と健太も満足げに言った。

貸農園での週末のひとときは、山田家にとって、ただの農作業以上のものを意味していた。忙しい日常から離れ、家族が一緒に過ごす時間、自然の中で心を落ち着かせる時間が、彼らの絆をより一層深めていたのだ。

準富裕層に属する山田家は、資産的には安定していたが、その豊かさを追い求めることには重きを置いていなかった。むしろ、彼らが大切にしていたのは、お金では買えない家族との時間や、自然の中で感じる小さな幸せだった。

ある日、農園の隣にある区画を借りている佐藤さんという年配の男性と話す機会があった。佐藤さんは定年後、趣味として貸農園を借りていた。

「こんなふうに家族で農作業をするなんて素晴らしいね」と佐藤さんは山田家に声をかけた。

「はい、週末の楽しみになっています。自然の中で過ごすと、本当に心が落ち着くんです」と、真由美が答えた。

「そうだよな。お金なんていくらあっても、結局のところ幸せはこういった時間の中にあるんだよ」と佐藤さんは静かに語った。

その言葉に、健太も深く共感した。確かに、彼らは準富裕層に属し、資産もある程度は持っていた。しかし、佐藤さんの言う通り、真の幸せはお金ではなく、こうした家族との時間や、自然の中で感じる穏やかな瞬間にこそあるのだ。

健太はふと、今までの生活を振り返った。昇進や給与の増加に追われ、少しでも多くの富を築こうと努力してきたが、最近はその目標が本当に自分たちの幸せにつながるのか疑問に感じていた。

貸農園での経験を通じて、健太は自分にとって大切なものが何なのか、はっきりと分かった気がした。

その後も山田家は、毎週末の貸農園での生活を続けた。彼らにとって、それは単なる趣味ではなく、家族の絆を深め、心の豊かさを感じるための時間となっていた。準富裕層という経済的な安定の中で、山田家は「本当の豊かさ」を見つけたのだった。








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