Z世代のこころ模様

春秋花壇

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Z世代のこころ模様 —18歳、大学受験を控えた年の暮れ—

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Z世代のこころ模様 —18歳、大学受験を控えた年の暮れ—

2024年の年末、街はクリスマスの賑わいを残しつつ、新年を迎える静けさも帯び始めていた。冷たい風がビルの間を吹き抜け、行き交う人々の肩をすくませる。東京の郊外に住む18歳の八千代は、マフラーに顔を埋めながら、足早に駅へと向かっていた。コートのポケットの中で握りしめたスマートフォンからは、友達とのグループチャットが絶え間なく振動していた。受験を控え、毎日が参考書と模試の山で埋め尽くされている八千代にとって、SNSは数少ない息抜きの場だった。友達と情報を交換し、弱音を吐き合い、共感し合うことで、重く沈んだ心がほんの少しだけ軽くなる。

今日は、いつもと違う特別なメッセージが、グループチャットに飛び込んできた。それは、同じ予備校に通う康太からのものだった。

「今年の年末、よかったらみんなで会わないか?」

康太。何度か顔を合わせたことはあるけれど、改まって話したことはほとんどない。でも、八千代はなんとなく彼に惹かれていた。SNSで繋がってから、共通の友達を介して少しずつ距離が縮まり、彼の投稿に「いいね」を押すのが、いつの間にか日課になっていた。

「いいね!集まるの、楽しみだね!」

八千代はすぐに返信を送った。指先が少し震えていることに気づかないふりをした。心の中では、康太に会えることが何よりも楽しみになっていた。

その日の午後、八千代は珍しく勉強の手を止め、外に出ることにした。冷たい空気が肺を満たし、頭が少しすっきりした。駅前の通りを歩くと、街路樹に飾られたイルミネーションが、夕暮れの空に温かい光を放っている。大学受験の重圧が肩にのしかかるけれど、久しぶりに会う友達、そして康太との再会を思うと、自然と足取りが軽くなった。

集合場所は、駅前のカフェ。扉を開けると、暖房の効いた暖かい空気が八千代を包み込んだ。すでに他の友達が集まっていて、楽しそうな笑い声が響いている。少し緊張しながら奥の席に進むと、康太が手を振って八千代に気づいた。

「やあ、八千代!待ってたよ。」

いつもSNSで見ている、少しはにかんだような笑顔が、目の前にある。心臓がドキッと跳ねた。彼の視線はまっすぐに八千代を見つめていて、その瞬間、胸の奥で何かが弾けるような、甘い痛みが走った。

「こんにちは、康太…」

八千代は頬を赤くしながら、ぎこちなく微笑んだ。

みんなと話しているうちに、緊張は徐々にほぐれていった。話題はやはり受験のことが多かったが、次第に最近あった面白いことや、将来の夢など、他愛もない話に移っていった。そんな中、康太が少し真剣な表情で口を開いた。

「実は、最近ちょっと考えてることがあって…」

「うん?どうしたの?」

八千代は身を乗り出して聞いた。

「SNSって、すごく便利だけど…結局、本当に大切なのは、リアルな繋がりだよなって、最近すごく思うんだ。受験が終わったら、もっとみんなで集まったり、直接会って話したりする時間を大切にしたいなって。」

康太の言葉に、八千代はハッとした。SNSで手軽に繋がれる時代だからこそ、リアルな繋がりが希薄になっているのかもしれない。康太の言葉は、単なる社交辞令ではなく、彼の心の奥底から出た言葉のように聞こえた。

「私も、同じこと思ってた。SNSもいいけど、やっぱりこうして顔を合わせて話すのが、一番嬉しいし、安心する。」

八千代は素直な気持ちを伝えた。

「そうだよね。」

康太は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見て、八千代の胸の奥に、温かいものが広がっていくのを感じた。

カフェを出ると、外はさらに冷え込んでいた。吐く息は白く、空には満月が輝いている。みんなでイルミネーションを見に行くことになり、肩を寄せ合いながら駅前の通りを歩いた。風が吹くたびに、木々がざわめき、落ち葉がカサカサと音を立てる。イルミネーションの光が、夜空に舞い散る雪のように、街の風景を幻想的に彩っていた。

「わあ…本当にきれい…」

八千代が思わず声を上げると、康太も隣で頷いた。

「うん、こんなきれいな光の中で、みんなと一緒にいられるって、すごく幸せだね。」

康太が八千代の方を見て、優しく微笑んだ。その言葉と視線が、八千代の胸に深く突き刺さった。

(もしかして…)

八千代はドキドキしながら、自分の気持ちを確かめるように、そっと康太の横顔を見た。街灯の光が彼の輪郭を照らし出し、いつもより大人びて見えた。

帰り道、八千代は康太と並んで歩くことになった。他愛もない話をしている間も、心臓の鼓動が早くなっていくのがわかった。SNSの画面越しでは感じることのできない、彼の体温や息遣い、そして優しい眼差しが、八千代の心を温かく包み込んでいく。

「また、みんなで集まろうね。」

別れ際、康太が言った。

「うん、絶対!」

八千代は満面の笑みで答えた。

家路につく途中、イルミネーションの残像が八千代の目に焼き付いていた。受験への不安はまだ消えないけれど、今日、康太と、そして友達と過ごした時間は、八千代の心を温かく照らし、未来への希望を灯してくれた。そして、康太への特別な想いが、小さく、けれど確かに、彼女の中で芽生えていることに気づいた。それは、イルミネーションの光のように、優しく、温かい光だった。
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