縁（えにし)

迷子の心の居場所

迷子の心の居場所

異世界子ども食堂

俺は、自分が死んだと確信していた。通り魔に襲われた幼稚園児を助けようとして、その刃に胸を貫かれた瞬間、全身が重く、視界がぼやけていくのを感じた。心のどこかで「これで終わりか」と思いながら、冷たくなっていく体を受け入れていた。

でも次に目を覚ました時、そこは俺が知っている世界ではなかった。辺りを見回すと、見知らぬ街並みが広がっていた。中世ヨーロッパを思わせる石造りの建物が立ち並び、人々は奇妙な服装をしている。だが、それよりも俺が驚いたのは、自分がどうやら異世界に転生したらしいということだ。

「ここは…どこだ？」

自分が死んだはずなのに、今こうして異世界で生きていることが理解できないまま、ふらふらと歩き出した。だが、周りの人々は特に驚きもせず、俺のことをじろじろと見ることもない。この世界では、異世界からの転生者はそれほど珍しくないのだろうか。

やがて、俺は一軒の古びた建物の前にたどり着いた。入口には「子ども食堂」と書かれた看板がかかっている。この世界にも子ども食堂があるのか、と不思議に思いながらも、なぜか引き寄せられるように中へと足を踏み入れた。

中は温かい雰囲気に包まれていた。大きなテーブルがいくつか並び、子どもたちが食事を楽しんでいる。厨房では、中年の女性が忙しそうに料理を作っていた。彼女の姿を見て、俺はふと母親を思い出す。

「あんた、そこの席に座りなさいな」

女性が俺を見て、にこりと笑った。その笑顔に安心感を覚えた俺は、言われるままに空いている席に座った。やがて、女性が温かいスープを持ってきてくれた。

「異世界から来たのかい？最近、そういう人が増えてるんだよ」

俺は驚きながらも頷いた。どうやら彼女は俺の事情を察していたらしい。

「ここは、異世界に来たばかりで戸惑っている子どもたちや、居場所をなくした子どもたちが集まる場所なんだよ」

「子ども食堂、か…」

「そうだよ。あんたもここで少し休んでいきなさい。無理に動かなくてもいいんだよ」

その言葉に、俺は深く頷いた。思い返せば、俺はあの時、幼稚園児を助けようとして死んだ。だが、この異世界では新しい命をもらったのかもしれない。それでもまだ、俺は何をすればいいのかわからなかった。

スープを飲みながら、ふと考えた。ここで何か役に立つことができないだろうか。俺には特別な力はないが、少なくとも子どもたちの役に立ちたいと思った。

「もしよければ、俺もここで手伝わせてもらえませんか？」

思い切ってそう言ってみた。女性は少し驚いた様子だったが、すぐに柔らかな笑顔を見せてくれた。

「それなら、食堂の手伝いをしてもらおうか。ここにはたくさんの子どもたちがいるからね、手が多い方が助かるんだよ」

その日から、俺は異世界子ども食堂で働くことになった。最初は簡単な皿洗いや掃除を任され、次第に料理の手伝いもするようになった。子どもたちとの交流は、俺にとっても新しい世界での生き方を見つける助けとなった。

ある日、食堂に小さな男の子がやってきた。彼はいつも一人で来る子どもで、他の子どもたちとはあまり話さなかった。気になって声をかけてみると、彼は小さな声で答えてくれた。

「僕、異世界から来たんだ…」

その言葉に驚いた。彼も俺と同じように異世界から来た子どもだったのだ。

「俺もそうなんだよ。だから、何か困ったことがあったら言ってくれ」

男の子は少し安心したように微笑んだ。俺たちは、異世界で新しい生き方を模索する者同士、少しずつ絆を深めていった。

こうして、異世界子ども食堂での生活は続いていった。俺が死んだと思っていたその瞬間から、新しい生が始まり、俺はここで役に立つことができると感じていた。特別なチート能力はないが、子どもたちと共に過ごす日々は何よりも価値があるものだった。

異世界転生という不思議な出来事が、俺に新しい生き方を教えてくれた。そして、俺はこの異世界で、子どもたちと共に新しい未来を築いていくことを誓ったのだった。