縁（えにし)

14歳 尊敬する人

尊敬する人

14歳のアキラは、学校の宿題で「尊敬する人」についての作文を書くことになった。クラスメートたちは、スポーツ選手や有名な科学者、歴史上の偉人を選んでいたが、アキラは何となく心にひっかかるものを感じていた。

アキラの両親は、特に有名人でもなければ、何か大きな業績を残しているわけでもなかった。父は普通のサラリーマンで、母は家事をこなしながらパートタイムで働いていた。日々の生活は、ごく平凡で特筆すべきこともないように思えた。

だが、アキラは両親のことを思い浮かべるたびに、何か温かい気持ちになっていることに気づいた。特に父が帰宅するときの笑顔や、母が夕食を用意する姿、二人が互いに支え合って生きている姿が、アキラにとっては何よりも大切なものであった。

両親との思い出
アキラは、小さな頃から両親とたくさんの思い出を共有してきた。週末には家族で公園に出かけ、ピクニックを楽しんだり、近所の図書館で本を借りてきて、一緒に読み聞かせをしたりした。父と母は、いつもアキラに寄り添い、彼の興味や好奇心を大切にしてくれた。

アキラが初めて自転車に乗った日も、父はずっと付き添ってくれた。何度も転んで膝を擦りむいたアキラを、父は優しく励ましながら、何度も挑戦させた。母はその様子を遠くから見守りながら、アキラの好きな冷たいジュースを手に持って待っていた。

その日、アキラはようやく自転車に乗ることができた。両親の拍手と笑顔に包まれながら、アキラは達成感とともに、両親の愛情を強く感じた。

尊敬の念
ある日、アキラは学校で困難な問題に直面した。友人とのトラブルで悩んでいた彼は、どうすれば良いのか分からず、家に帰るとすぐに両親に相談した。父は静かに話を聞き、母はアキラの感情を理解しようと努めた。

「アキラ、自分の気持ちを大切にしなさい。でも、相手の立場に立って考えることも忘れないでね」と母は優しくアドバイスをくれた。

「時には我慢も必要だけど、無理に自分を押し殺すことはない。大切なのは、自分がどうしたいかを正直に伝えることだよ」と父は力強く言った。

その言葉に励まされたアキラは、翌日学校で友人と正直に話し合い、無事に誤解を解くことができた。両親の助言が、彼にとってどれほど大きな支えになったかを感じる瞬間だった。

作文を書く
アキラは、その日の夜、両親のことを思い返しながら作文を書き始めた。「尊敬する人は両親です」と書き出したが、最初はそれが少し恥ずかしいように思えた。しかし、筆を進めるうちに、彼の気持ちは自然と溢れ出してきた。

両親が日々見せる優しさや忍耐、そして彼に対する無償の愛情は、アキラにとって何よりも尊敬すべきものであった。特に、彼らがどんなに忙しくても、彼の話に耳を傾け、支え続けてくれたことを思い返すと、感謝の気持ちが込み上げてきた。

「両親は、特別なことをしているわけではないかもしれない。でも、彼らの愛情と支えがあるからこそ、僕は毎日安心して過ごせている。そんな両親を尊敬しています」とアキラは作文に書き綴った。

幸せの意味
アキラは、作文を書き終えた後、ふと思った。「尊敬する人は両親です」と心から言える自分は、なんて幸せなのだろうと。彼の中には、両親との強い絆と、それを当たり前と感じている自分への誇りがあった。

次の日、学校で発表の時間がやってきた。アキラは緊張しながらも、両親への感謝と尊敬の念を込めて、堂々と作文を読み上げた。クラスメートたちは、アキラの言葉に耳を傾け、教師も優しい笑顔を浮かべていた。

その日の帰り道、アキラは家に帰って両親に「ありがとう」と言いたい気持ちでいっぱいだった。家のドアを開けると、母がキッチンで夕食を作っており、父が新聞を読みながらリビングでくつろいでいた。

「ただいま」と言うアキラに、両親はいつものように微笑みかけた。その笑顔が、アキラにとって何よりの宝物であることを、彼は強く感じた。

終わりに
アキラは、両親が特別なことをしていなくても、その存在自体が自分にとっての支えであり、尊敬すべき存在であることを実感していた。両親の愛と支えが、彼にとって何よりも大切で、幸せであると感じることができる自分は、本当に幸運であり、感謝すべき存在なのだと。

そして、彼はその感謝の気持ちを胸に、これからも両親を尊敬し続けることを誓った。