縁(えにし)

春秋花壇

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10歳 マアジの夜釣り

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「マアジの夜釣り」

 10歳の僕、翔太(しょうた)は、今日という日を心待ちにしていた。夏休みのある夜、父さんと一緒に初めての夜釣りに出かけることになっていたからだ。夕方、家族で夕食を終えた後、父さんが「準備はできたか?」と尋ねてきた。僕は元気よく「もちろん!」と答え、釣り竿とエサを手に取り、懐中電灯を腰に装着した。

 母さんは心配そうに「気をつけてね、二人とも」と言ったが、僕は興奮で胸がいっぱいだった。父さんの隣に立ち、釣り具を持って出発した。

 夜の海は静かで、波の音だけが響いていた。僕たちは浜辺から少し離れた堤防へ向かった。星空が広がり、月明かりが海を銀色に輝かせていた。

 「ここが今日の釣り場だ」と父さんが言いながら釣り竿を準備した。僕も隣で釣り糸を海に投げ込んだ。初めての夜釣りに少し緊張していたけれど、父さんと一緒なら何も怖くない。

 「夜釣りでは目に見えないから、感覚が大事だ」と父さんが教えてくれた。「竿の先に集中して、小さな振動も見逃さないようにするんだ」。

 波の音と静寂の中で、僕たちはじっと待った。海風が心地よく、夜の冷たさが少しだけ肌に触れた。しばらくして、僕の釣り竿が微かに動いた。僕は息を止め、慎重に竿を引いた。

 「父さん!来たよ!」と小声で叫ぶと、父さんはにっこりと微笑んだ。「焦らず、ゆっくり引き上げるんだ」とアドバイスをくれた。

 僕は言われた通りに慎重に釣り竿を引き上げると、銀色に輝くマアジが姿を現した。夜の海に浮かび上がるその魚は、美しく、まるで宝石のようだった。「やったね、翔太!初めての夜釣りで成功だ」と父さんが褒めてくれた。

 僕は大きな声で喜びを表したかったが、夜の静けさを壊さないように小さくガッツポーズをした。その後も、僕たちは釣りを続けた。父さんは僕にいろいろなコツを教えてくれ、僕もそれを吸収しながら、次々とマアジを釣り上げた。

 夜が深まると、潮の香りが強くなり、海の生き物たちの活動が活発になってきた。僕はそんな夜の海の雰囲気が大好きになった。何度か魚がかからない時間もあったけれど、それでも父さんと一緒にいるだけで楽しかった。

 「翔太、少し休憩しようか」と父さんが言い、お弁当を取り出した。僕たちは堤防に腰を下ろし、サンドイッチを食べながら星空を見上げた。「父さん、夜釣りって本当に楽しいね。もっと上手くなりたいな」と僕は言った。

 「お前ならできるさ。夜の海は静かで、心を落ち着けてくれる。釣りはただ魚を捕るだけじゃない。自然と向き合うことで、自分自身と向き合う時間でもあるんだ」と父さんは言った。

 その言葉に、僕は少し大人になった気分になった。父さんが教えてくれる釣りの技術だけでなく、心の在り方も学びたいと思った。

 休憩の後、再び釣りを再開すると、僕たちはさらに多くのマアジを釣り上げた。月が高く昇り、夜が深まる中で、僕たちのバケツは魚でいっぱいになった。

 帰り道、僕は疲れたけれど満足感で胸がいっぱいだった。「父さん、今日は本当にありがとう。これからも一緒に釣りをしようね」と言うと、父さんは優しく微笑んで「もちろんだ、翔太。お前と過ごす時間が、父さんにとっても一番の宝物だ」と答えた。

 家に帰ると、母さんが玄関で迎えてくれた。「たくさん釣れたのね、すごいじゃない」と驚いた顔を見せた。僕は誇らしげにバケツを見せ、「今日は僕も釣りの名人になれたよ」と自慢げに言った。

 その夜、夕食は新鮮なマアジを使った料理が並んだ。母さんが作ってくれた刺身やフライは絶品で、家族みんなが満足そうに食べていた。

 寝る前、僕はベッドの中で今日の出来事を思い返していた。父さんと過ごした特別な一日、たくさんの学びと楽しい思い出。これからも釣りを続けて、もっと上手くなりたいと思った。

 「おやすみ、翔太」と父さんが部屋に入ってきて、僕に毛布をかけてくれた。「今日のこと、忘れないでくれよな」。

 「うん、ありがとう、父さん」と僕は微笑みながら答えた。

 その夏の夜が、僕にとって一生の宝物となることは間違いない。父さんとの釣りの時間が、僕にとって大切な思い出となり、これからの人生にも力を与えてくれると信じている。








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