縁（えにし)

10歳 マアジを釣りに行こう

「マアジを釣りに行こう」

　夏休みのある朝、10歳の僕、悠斗（ゆうと）は目を覚ますと、心が踊るような気持ちでいっぱいだった。今日は待ちに待った、父さんと一緒にマアジを釣りに行く日だ。

　父さんは釣りの名人だ。彼の腕前は町中でも評判で、いつも釣り大会で優勝している。僕はそんな父さんに憧れて、小さな頃から釣りを始めた。今日はその技を存分に見せてもらえると思うと、朝ごはんもそっちのけで準備を始めた。

　「悠斗、ちゃんと朝ごはんを食べなさい」と母さんの声が台所から聞こえてくる。僕は仕方なく台所に向かい、トーストと卵を急いで食べた。

　「父さん、準備はできた？」と僕は玄関で父さんを待ちながら、せっせと釣り竿とエサの入ったバケツを持ち上げた。

　「おう、行こうか」と父さんがニコニコしながらやってきた。僕たちは車に乗り込み、町外れの釣りスポットへ向かった。

　到着すると、早朝の静けさと波の音が心地よく、僕たちを迎えてくれた。父さんは釣り糸を準備しながら、「今日は良い日だな、きっとたくさん釣れるぞ」と言った。僕はその言葉に胸を躍らせながら、自分の釣り竿を手に取り、エサを付けた。

　釣り糸を海に投げ込むと、しばらくして小さな振動が伝わってきた。僕は息を止めて、じっと待つ。すると、釣り竿がグイッと引かれた。「父さん！引っかかったよ！」と興奮気味に叫ぶと、父さんは「落ち着け、悠斗。ゆっくりと引き上げるんだ」とアドバイスしてくれた。

　僕は言われた通りに慎重に釣り竿を引き上げると、銀色に輝くマアジが姿を現した。僕は歓喜の声を上げ、父さんも嬉しそうに微笑んでいた。「よくやったな、悠斗。これが初めてのマアジだな」と言いながら、父さんは魚をバケツに入れてくれた。

　その後も、僕たちは釣りを楽しんだ。父さんは僕にいろいろな釣りのテクニックを教えてくれた。釣り糸の投げ方、エサの付け方、魚がかかったときの対処法。どれも父さんの経験からくるものばかりで、僕は夢中で聞き入った。

　昼過ぎになると、僕たちは持ってきたお弁当を広げて、海を見ながら食べた。父さんが作ってくれたおにぎりは特別美味しく感じた。「父さん、釣りって本当に楽しいね。僕ももっと上手くなりたいな」と言うと、父さんは「お前ならできるさ。これからも一緒に釣りに行こう」と笑顔で答えた。

　午後も釣りを続け、夕方になると、バケツはたくさんのマアジでいっぱいになった。僕は疲れたけれど、心地よい疲労感と満足感で満たされていた。

　帰り道、父さんは「今日は最高の一日だったな」と言った。「お前がこんなにたくさん釣れるとは思わなかったぞ」。僕は嬉しそうに頷き、「父さんの教え方が良かったんだよ」と返した。

　家に帰ると、母さんが玄関で迎えてくれた。「たくさん釣れたのね、すごいじゃない」と驚いた顔を見せた。僕は誇らしげにバケツを見せ、「今日は僕も釣りの名人になれたよ」と自慢げに言った。

　その夜、夕食は新鮮なマアジを使った料理が並んだ。母さんが作ってくれた刺身やフライは絶品で、家族みんなが満足そうに食べていた。

　寝る前、僕はベッドの中で今日の出来事を思い返していた。父さんと過ごした特別な一日、たくさんの学びと楽しい思い出。これからも釣りを続けて、もっと上手くなりたいと思った。

　「おやすみ、悠斗」と父さんが部屋に入ってきて、僕に毛布をかけてくれた。「今日のこと、忘れないでくれよな」。

　「うん、ありがとう、父さん」と僕は微笑みながら答えた。

　その夏の一日が、僕にとって一生の宝物となることは間違いない。父さんとの釣りの時間が、僕にとって大切な思い出となり、これからの人生にも力を与えてくれると信じている。