縁（えにし)

8歳 ヤングケアラーの物語

ヤングケアラーの物語

太陽が昇る前の静けさの中、8歳の陽太（ひなた）は目を覚ました。隣の部屋からかすかに聞こえる母の寝息。母さんは具合が悪くて、ほとんど寝ている時間が長い。陽太は静かに布団を抜け出し、部屋の片隅に置かれた制服に手を伸ばす。

今日も学校だ。だけど、陽太にとっては学校だけが一日の仕事ではない。母さんのために朝食を用意し、薬を準備し、家の掃除もこなす。陽太はヤングケアラー。彼の一日は普通の子どもとは違う。

「おはよう、母さん」と陽太はそっと母の耳元で囁いた。母はかすかに目を開け、弱々しい笑みを浮かべた。「おはよう、陽太。今日もがんばってね」と言う母の声はいつもと変わらない優しさに満ちていた。

キッチンに向かい、手慣れた動きでトーストを焼き、スープを温める。母の好きなカモミールティーも忘れずに用意する。「お腹空いた？」と陽太は母のベッドサイドにトレイを置き、優しく問いかける。母は小さく頷き、トーストに手を伸ばした。

陽太は母の隣に座り、少しの間だけ母と一緒に過ごす時間を楽しんだ。それから急いで自分の朝食を済ませ、学校へ向かう準備をする。ランドセルを背負い、母に「行ってきます」と言うと、母は再び「いってらっしゃい」と笑顔で送り出してくれた。

学校の授業中、陽太は時折母のことを思い出す。「母さんは大丈夫かな」と心配になることもある。それでも、陽太は友達と遊ぶことも忘れない。授業が終わると、陽太は家に戻り、また母のケアを始める。宿題をやりながらも、母の薬の時間を忘れない。

ある日、学校で陽太の担任の先生が「今日は家族についての作文を書いてみましょう」と言った。陽太は一瞬迷ったが、勇気を出して自分の状況を綴ることにした。彼の文章には、母への感謝と愛情が溢れていた。「母さんは僕にとって大切な人です。だから、僕は母さんを支え続けます」と書き終えた時、陽太は少しだけ自分が大人になった気がした。

放課後、陽太は作文を家に持ち帰り、母に見せた。母は涙を浮かべながら「ありがとう、陽太」と言い、彼を抱きしめた。その瞬間、陽太は母の温もりを感じ、もっと頑張ろうと思った。

夜、陽太はベッドに入り、母の寝息を聞きながら「おやすみ、母さん」と心の中でつぶやいた。明日もまた、陽太の忙しい一日が始まる。でも、彼は決して一人じゃない。母の愛がいつも彼のそばにある。