縁（えにし)

9歳の壁

9歳の壁

夏休みが始まり、小さな町に住む日葵（ひまわり）は友達と公園で遊んでいた。日葵は元気で明るい性格で、いつも笑顔を絶やさない子だった。しかし、新しい学年が始まる前に、日葵の前に一つの壁が現れた。

その壁とは、学校での勉強だった。特に数学が苦手で、前の学年で理解できなかった内容が今度の学年でも出てくることを知り、不安になっていた。日葵は家でテキストを開き、一生懸命勉強しようとしても、なかなか理解できず、ついには泣き出してしまった。

「日葵、大丈夫？何があったの？」と、母が優しく声をかけてきた。日葵は素直に悩みを話し、数学の壁について言葉に詰まった。母は落ち着いた声で言った。「ひまり、君ができないと思うことは何でも、少しずつ解決していくことができるんだよ。一緒にがんばろうね。」

母の励ましを受け、日葵は再び教科書を開いて、少しずつ問題に取り組むようになった。しかし、なかなか答えが見つからず、気が散ってしまう。

日葵の様子を何日か見ていたお母さんは、ノートを買ってきてくれた。

そこに手書きで、小学1年生からの四則計算をノート一杯に書いた。

「ママもね、おじいちゃんにこうしてもらったのよ」

と、懐かしそうに話してくれた。

「え?ママも算数苦手だったの?」

「うん、国語は、聖書とか毎日読んでいたから、全然困らなかったけど算数は、なかなか掛け算が覚えられなかったり、数字がひょこひょこ足踏みしてるみたいに見えて、窓の外ばかり見てたよ」

「へー、じゃあ、ひまりの算数嫌いはママ譲り?」

「日葵はママと日葵が似てると思うの?」

「うん、お小遣い帳つけられないことやお片付けが苦手なところはママによく似ていると思うわ」

「そっかー」

「なら、安心だね」

「えええええええ、どうして?」

「ママは、今、家計簿つけたりするの苦手だけど、学校の算数は苦手じゃなくなったもの」

「どうやったの?どうしたらそうなったの?」

「公文みたいに、毎日計算問題をこなしたの」

「日葵にもできる?」

「もちろん」

それから毎日、ママはノート一杯、計算問題を作ってくれました。

日葵は毎日、ママが作ってくれた計算問題に取り組みました。最初は難しいと感じることも多かったけれど、母の励ましと一緒に少しずつ成果が出るようになりました。

夏休みが進むにつれて、日葵は自信を取り戻し始め、算数の壁が少しずつ低くなっていくのを感じました。それと同時に、母との時間も大切に感じるようになりました。母は日葵の成長を見守りながら、必要なサポートを惜しみませんでした。

ある日、日葵は友達と公園で遊びながら、「算数、もう少しで乗り越えられそうな気がするよ」と話しました。友達たちは笑顔で応援し、日葵は新しい学年への不安よりも、未来に向かって前進する自信を感じていました。

そして、夏休みの最後の日、日葵は母に抱きしめられながら、「ありがとう、ママ。私、もう少し頑張るね」と言いました。母も優しく微笑みながら、「日葵、君はきっと大丈夫。どんな壁も、一緒に乗り越えていけるから」と答えました。

日葵はその言葉を胸に、新しい学年に向かって前を向いて歩いていきました。算数の壁はまだ完全に乗り越えられていなかったけれど、彼女は自分の力を信じ、一歩ずつ成長していく決意を新たにしていました。

終わり