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待ち合わせはどこへ

待ち合わせはどこへ

冬の冷たい風が頬を刺す。駅の構内で時計を見つめながら、私は苛立ちを抑えるのに必死だった。

「何してるんだろう、遅れるなら連絡くらいしてくれてもいいのに。」

忘年会はあまり乗り気じゃなかったが、同じ階の後輩である美咲が「飲み会初めてなんです。緊張します」と言っていたのを思い出し、少しでも助けになればと思って待ち合わせを提案したのだ。

20分間の謎の時間

約束の時間は19時。駅の改札口で待つ私の前を、スーツ姿の人々が慌ただしく行き交う。その中に美咲の姿はない。

「何かあったのかな。」

連絡を入れようとスマホを取り出したところで、ふと自分のLINEの画面に既読がついていないことに気づく。メッセージはちゃんと送ったはずだ。

「返信忘れてるだけかも…。」

そう思いながらも気になり、改札周辺や売店の前を探して歩いた。もしかしたら改札を間違えて別の出口にいるのかもしれない。駅の構内を一周しながら、見覚えのある小柄な彼女を探したが、どこにもいない。

会場での再会

焦りを感じ始めた頃、ふと「もしかして……」と思い当たった。私は急いで駅を出て、忘年会の会場である居酒屋へ向かった。

会場の暖簾をくぐると、すでに賑やかな声が響いている。靴を脱ぎ、奥の座敷に案内されると――そこにいた。

「美咲！」

その声に気づいた彼女が振り返り、笑顔で手を振る。

「あ、先輩、遅かったですね！」

「えっ、遅かったって……待ち合わせしたよね？！」

その言葉に美咲はポカンとした表情を浮かべた後、はっとした顔になった。

「あれ、もしかして駅で待ってたんですか？すみません！私、直接行っちゃいました！」

「……直接行った？」

頭の中で何かが崩れる音がした。確かに待ち合わせの時、彼女は「会場に行く前に一緒に行きましょう」と言っていた。でも、連絡くらいしてほしい。

「もう20分以上探したんだけど！」

私の言葉に彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめんなさい、初めての飲み会で緊張してて、駅の人混みに耐えられなくて……。でも、ちゃんと会場に着けたので安心してました。」

乾杯の後で

なんだか拍子抜けしつつも、無事に再会したことに安堵した私は、美咲を責める気力もなくなり、席についた。他の同僚たちも集まり、忘年会が始まる。

「先輩、飲み会ってすごいですね。みんな楽しそうにしゃべってて。」

そう言いながら、美咲は手にしたグラスを恐る恐る口に運ぶ。そのぎこちなさに笑いがこみ上げた。

「最初はみんなそんな感じだよ。でも、飲みすぎないようにね。」

「はい、気をつけます。」

その後、美咲は少しずつリラックスし、他の同僚たちとも打ち解けていった。最初は緊張していた様子だったが、意外と饒舌な一面も見せ始める。

「先輩、今日はありがとうございました。本当に助かりました。」

忘年会が終わり、駅に向かう途中で美咲が小さな声でそう言った。

「いや、こちらこそ待たされて大変だったけどね！」

半ば冗談混じりにそう返すと、美咲は申し訳なさそうにまた頭を下げた。

「次はちゃんと連絡しますね。」

「次があるの？」

「もちろんです！楽しかったから、また飲み会あったら参加したいです。」

その言葉に私は、ふと心が温かくなるのを感じた。初めての飲み会で緊張していた彼女が、少しでも楽しんでくれたなら、それでよかったのかもしれない。

帰り道

夜風が頬を撫でる帰り道。美咲と別れた後、私は駅のホームでぼんやりと今日の出来事を思い返していた。

「待ち合わせしたのに来ないとか、ほんと驚いたな。」

そう呟きながらも、彼女のぎこちなさや純粋さが少し微笑ましかった。次の飲み会では、もっとスムーズに進められるようにしようと心に決めた。

そういえば、私も最初の飲み会は緊張していたっけ。何もかもが初めてで、失敗だらけだった。でも、そんな日々を積み重ねて、今がある。

「まあ、次は連絡してくれるだろうし。」

電車が到着する音に促され、私は乗り込んだ。車内の窓に映る自分の顔は、少しだけ笑っていた。