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俺は小説家として生きる

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「俺は小説家として生きる」

「俺は小説家として生きる」――その一言を、彼はいつも誇らしげに口にしていた。若干二十歳の男子、山田翔太。短い髪に眼鏡をかけ、ほとんど表情を変えないその顔つきは、誰が見ても「大志を抱いている」という印象を与えた。しかし、実際のところ、翔太はまだ、作家としての生活をしているわけではなかった。むしろ、その言葉を口にする度に、彼自身も心の中で微かな違和感を感じていた。

翔太が住んでいるアパートは、いわゆる「風呂キャンセル界隈」にある。学生街と呼ばれるエリアの一角にあり、古びた建物が並んでいる。周りには、アルバイトをして生計を立てている若者たちが多く住んでおり、昼夜を問わず活気がある。しかし、翔太にとって、この街は理想の場所ではなかった。彼の夢の舞台は、もっと華やかで、きらびやかな都市の一角であるべきだと思っていた。

しかし現実はそう甘くなかった。翔太は、ある意味で「東横キッズ」と呼ばれる人々の一員だった。東横キッズとは、いわば若者たちの中で、売れることを最優先にした作家志望者たちを指す言葉だ。彼らは、売れなければ意味がないと考え、「売れるもの」を書くために常に努力を続けていた。しかし、翔太は違った。

彼は「書きたいもの」と「売れるもの」が違うということに、ずっと悩み続けていた。商業的な成功を収めるためには、大衆受けするテーマや展開を選ばなければならないと理解している一方で、自分が本当に書きたかったのは、他の作家があまり書かないような深いテーマや個人的な経験に基づいた物語だった。

その矛盾した思いが、翔太を悩ませていた。例えば、彼が書こうとしていたのは、恋愛でも冒険でもない。むしろ、社会の暗部に迫るような重たいテーマの小説であり、時には哲学的な要素も含まれていた。だが、商業主義の世界では、そのような小説が売れる可能性は低い。翔太自身、そう感じていた。

ある晩、翔太は「東横キッズ」の仲間たちと集まることになった。彼らは、最近出版されたベストセラー本を手に、あれこれと意見を交わしていた。翔太はその中で、彼自身の夢を語ることにした。

「俺、商業作家になりたいんじゃないんだ。ただ、心から書きたいことを書いて、それが読者に届けばいい。売れることなんて二の次だよ」

その言葉を聞いた仲間たちは、一瞬静まり返った後、ひとりが冷笑を浮かべながら言った。

「それは理想論だろ。今は、売れなきゃ意味がない。売れないと、結局はどんなに努力しても生活できないんだよ」

もう一人は、肩をすくめて言った。

「まあ、理想を持つのは自由だけど、現実的に考えないと、気づいたときにはもう遅いよ。俺たちが書いているのは、結局、読者が欲しがっているものに過ぎない」

翔太はその言葉を聞いて、しばらく黙っていた。彼は自分の本当の気持ちを言葉にするのが難しくなっていた。心の中では、自分が抱える矛盾や葛藤が膨れ上がっていた。

その晩、翔太は帰り道を歩きながら、改めて自分の選んだ道を考えた。彼は、確かに作家になりたいという強い意志を持っていた。しかし、売れるために妥協することが自分の本当にやりたかったことなのか、それとも、心から信じるテーマを貫き通すことが大事なのか、その二つの選択肢の間で揺れていた。

帰宅後、翔太は机の前に座り、何度も何度もペンを走らせようとした。しかし、どうしてもその手が止まってしまった。彼は「書きたいもの」と「売れるもの」のギャップを埋める方法を見つけられなかった。

翌日、翔太は再び自分の部屋で小説の執筆を試みた。だが、今度は違った視点を持ってみようと思った。彼はふと、自分の心に問いかけた。「もし、売れなくてもいいとしたら、俺は本当に何を書くべきなんだろう?」と。

そして、彼は気づいた。彼が心から書きたかったのは、他人の期待に応えるための小説ではなく、自分の内面を表現するための物語であった。それがたとえ売れなくても、彼にとっては一番大切なことだと、ようやく理解した。

翔太はペンを握りしめ、物語の続きを書き始めた。それは、商業的な成功を目指すものではなく、自分自身の声を反映させたものだった。彼は自分の心の中で確信を持ち始めていた。「俺は小説家として生きる」と。売れなくても、誰かの期待に応えなくても、ただ自分の言葉を信じて書き続けるのだ。

翔太は初めて、自分自身に誠実であることの意味を知った。






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