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ざまぁばかりを書いていると心が病んでいく
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ざまぁばかりを書いていると心が病んでいく
「今日は、またこのシーンだ。」
俺はデスクに向かって、いつものようにキーボードを叩く。画面に映るのは、タイトルが「ざまぁ」一色で埋め尽くされた小説の一節だ。あらすじはいつも通り――“主人公がひどい目にあって、最終的に逆転して悪党を懲らしめる。” 少しでも読者のストレスを解消するように、主人公の立場がどんどん悪化していく様子を描き、そして最後に一気にそのストーリーをひっくり返して、悪党や敵キャラに対して「ざまぁ」と爽快に終わるようにする。
でも、最近になって、俺はその「ざまぁ」のシーンを打つたびに、心がどんどん重くなっていくのを感じていた。いや、心というより、精神そのものが少しずつ壊れていくような、そんな感覚だ。
「主人公、悪党に捕まって、もうダメだ、ってとこまで追い込まれて…。」
俺は指を止め、ため息をついた。あれだけ楽しんで書いていたはずのシーンが、今では苦痛でしかない。最初はただ単純に、逆転劇に爽快感を覚えていた。それを読んでくれる読者の顔を想像し、喜ばせるために頑張っていた。でも、最近はその「爽快感」が俺の中で次第に薄れていき、代わりにあるのは何とも言えない虚無感だった。
「こんな話ばっかり書いていると、俺もおかしくなっちゃうな…。」
自嘲気味に言ったその言葉が、何故か響いた。だんだんと、自分の感情がわからなくなってきていた。
俺は元々、普通の小説家を目指していた。感動的な物語や、人間ドラマを描くような作品を世に送り出したいと思っていた。でも、現実は甘くなかった。デビュー作は低評価で、次の作品もほとんど反響なし。そんな中で、ある小説投稿サイトに出会った。そのサイトでは、読者の反応がすぐに得られる上に、あるジャンルで書けば、必ずしも上位に食い込むことができると知った。
そのジャンルとは「ざまぁ」だった。
俺はしばらくその道を進んだ。描けば描くほど、どんどんランキングが上がり、読者の数も増えていった。嬉しかった。まるで自分が本当に成功したかのように思えた。しかし、成功していく中で、気づいたことがあった。俺が描く逆転劇、つまり「ざまぁ」ばかりに、読者が満足していることに。最初はその反応を喜んでいたが、だんだんとそれが怖くなっていった。
「こんなにみんな、他人の不幸を楽しんでるんだ…。」
俺は自分の心の中に芽生えた不安を無視して、次々と「ざまぁ」のシーンを打っていった。物語が進むたびに、主人公がどんどん追い詰められ、最後に反撃する。読者の期待に応えた後の快感が、何度も何度も続いていった。
でも、次第にその快感は薄れ、ただ「ざまぁ」シーンを打つことが義務に感じるようになっていった。最初は単純な楽しさから始めたはずの物語が、今では俺の精神を支配しているような気がした。
「もう、こんな話をいつまで書き続ければいいんだ…。」
俺は深く息をつき、肩を落とす。画面に映る文字の列が目の前でぼやけていく。目をこすっても、そのぼやけた文字は消えない。何かがじわじわと迫ってきている気がした。
「他人の不幸を描いて、それに満足する自分が怖い。」
それは、俺が最初に感じた違和感だった。最初は逆転劇が爽快で、主人公の勝利にみんなが手を叩いてくれるのが嬉しかった。しかし、何度も何度もそれを繰り返すうちに、俺はどこかでその勝利に満足できなくなっていた。主人公が勝ち、悪党が負ける。あまりにもシンプルで、平凡な物語。
そして気づいた。俺が本当に書きたいのは、こんな単純な「ざまぁ」の物語じゃない。自分の感情を深く掘り下げ、登場人物たちが苦悩し、成長し、そして最後にほんの少しだけ幸せになるような、そんな物語を描きたかった。だが、今の俺にはそのような話を描く勇気がなかった。
「俺は…俺の本当の気持ちを、どうしても書けないんだ。」
突然、デスクの上に落ちたペンを見つめながら、俺は気づいた。自分が今、どこに向かっているのか、どこに進みたいのかすら、わからなくなっている。ひたすら「ざまぁ」を書き続けているだけで、いつの間にか本来の自分を見失っていた。
その夜、俺は決めた。
「もう、いいや。」
新しい物語を始めよう。この物語には「ざまぁ」は出てこない。誰かを傷つけることなく、ただ静かに進んでいく、温かい物語。誰にも期待されなくても、自分が本当に書きたいと思うものを、心から描きたかった。
次の日から、俺は「ざまぁ」の世界から抜け出し、新しい道を歩み始めた。あの暗い気持ちを抜け出すためには、少しでも自分を取り戻すことが必要だと感じたから。
そして、やがて俺は、ほんの少しだけ心の平穏を取り戻すことができた。
「もう、誰のためでもなく、自分のために書こう。」
「今日は、またこのシーンだ。」
俺はデスクに向かって、いつものようにキーボードを叩く。画面に映るのは、タイトルが「ざまぁ」一色で埋め尽くされた小説の一節だ。あらすじはいつも通り――“主人公がひどい目にあって、最終的に逆転して悪党を懲らしめる。” 少しでも読者のストレスを解消するように、主人公の立場がどんどん悪化していく様子を描き、そして最後に一気にそのストーリーをひっくり返して、悪党や敵キャラに対して「ざまぁ」と爽快に終わるようにする。
でも、最近になって、俺はその「ざまぁ」のシーンを打つたびに、心がどんどん重くなっていくのを感じていた。いや、心というより、精神そのものが少しずつ壊れていくような、そんな感覚だ。
「主人公、悪党に捕まって、もうダメだ、ってとこまで追い込まれて…。」
俺は指を止め、ため息をついた。あれだけ楽しんで書いていたはずのシーンが、今では苦痛でしかない。最初はただ単純に、逆転劇に爽快感を覚えていた。それを読んでくれる読者の顔を想像し、喜ばせるために頑張っていた。でも、最近はその「爽快感」が俺の中で次第に薄れていき、代わりにあるのは何とも言えない虚無感だった。
「こんな話ばっかり書いていると、俺もおかしくなっちゃうな…。」
自嘲気味に言ったその言葉が、何故か響いた。だんだんと、自分の感情がわからなくなってきていた。
俺は元々、普通の小説家を目指していた。感動的な物語や、人間ドラマを描くような作品を世に送り出したいと思っていた。でも、現実は甘くなかった。デビュー作は低評価で、次の作品もほとんど反響なし。そんな中で、ある小説投稿サイトに出会った。そのサイトでは、読者の反応がすぐに得られる上に、あるジャンルで書けば、必ずしも上位に食い込むことができると知った。
そのジャンルとは「ざまぁ」だった。
俺はしばらくその道を進んだ。描けば描くほど、どんどんランキングが上がり、読者の数も増えていった。嬉しかった。まるで自分が本当に成功したかのように思えた。しかし、成功していく中で、気づいたことがあった。俺が描く逆転劇、つまり「ざまぁ」ばかりに、読者が満足していることに。最初はその反応を喜んでいたが、だんだんとそれが怖くなっていった。
「こんなにみんな、他人の不幸を楽しんでるんだ…。」
俺は自分の心の中に芽生えた不安を無視して、次々と「ざまぁ」のシーンを打っていった。物語が進むたびに、主人公がどんどん追い詰められ、最後に反撃する。読者の期待に応えた後の快感が、何度も何度も続いていった。
でも、次第にその快感は薄れ、ただ「ざまぁ」シーンを打つことが義務に感じるようになっていった。最初は単純な楽しさから始めたはずの物語が、今では俺の精神を支配しているような気がした。
「もう、こんな話をいつまで書き続ければいいんだ…。」
俺は深く息をつき、肩を落とす。画面に映る文字の列が目の前でぼやけていく。目をこすっても、そのぼやけた文字は消えない。何かがじわじわと迫ってきている気がした。
「他人の不幸を描いて、それに満足する自分が怖い。」
それは、俺が最初に感じた違和感だった。最初は逆転劇が爽快で、主人公の勝利にみんなが手を叩いてくれるのが嬉しかった。しかし、何度も何度もそれを繰り返すうちに、俺はどこかでその勝利に満足できなくなっていた。主人公が勝ち、悪党が負ける。あまりにもシンプルで、平凡な物語。
そして気づいた。俺が本当に書きたいのは、こんな単純な「ざまぁ」の物語じゃない。自分の感情を深く掘り下げ、登場人物たちが苦悩し、成長し、そして最後にほんの少しだけ幸せになるような、そんな物語を描きたかった。だが、今の俺にはそのような話を描く勇気がなかった。
「俺は…俺の本当の気持ちを、どうしても書けないんだ。」
突然、デスクの上に落ちたペンを見つめながら、俺は気づいた。自分が今、どこに向かっているのか、どこに進みたいのかすら、わからなくなっている。ひたすら「ざまぁ」を書き続けているだけで、いつの間にか本来の自分を見失っていた。
その夜、俺は決めた。
「もう、いいや。」
新しい物語を始めよう。この物語には「ざまぁ」は出てこない。誰かを傷つけることなく、ただ静かに進んでいく、温かい物語。誰にも期待されなくても、自分が本当に書きたいと思うものを、心から描きたかった。
次の日から、俺は「ざまぁ」の世界から抜け出し、新しい道を歩み始めた。あの暗い気持ちを抜け出すためには、少しでも自分を取り戻すことが必要だと感じたから。
そして、やがて俺は、ほんの少しだけ心の平穏を取り戻すことができた。
「もう、誰のためでもなく、自分のために書こう。」
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