「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
1,607 / 1,782

真のしあわせの源?

しおりを挟む
真のしあわせの源?

1971年10月、私のアパートのドアが静かにノックされた。その時立っていたのは、一人の若い男、里上さんだった。彼は穏やかな微笑みを浮かべ、上品な態度でこう言った。「エホバの証人としてお伝えしたいことがあります。」

当初、私はただの興味から応じた。名声もお金もすでに手に入れており、生活に困っているわけでもない。そんな中で、他に求めるものがあるだろうかと思っていた。しかし、里上さんが何度も訪れ、彼と話す時間が重なるうちに、私はだんだんとその言葉に引き込まれていった。

彼が最初に来た時は、まだ無関心でいた。しかし、訪れる度にその言葉が心に響き、何かが変わり始めていた。ある日、里上さんは母親を伴って再び私の元を訪れ、「今度から母に代わります」と告げた。その瞬間、私の胸に不安が広がった。何が違うのだろう、この人たちには私が得ている物質的なものでは手に入らない何かがある。私の心には、空虚感が漂っていた。

名声やお金で人々の羨望を集めていた私。しかし、それらが私を満たすことはなく、何かが足りないと感じ続けていた。漫画家としての成功は、どこか空虚で物足りなさを感じさせるもので、心の中で求めるものが明確に見えなかった。しかし、里上さんとその母親の顔には、私が手にしている名声や金銭を遥かに超える何かが輝いていた。それが何かを知りたくて、私はその答えを聖書に求める決意をした。

学びの道は決して簡単ではなかった。漫画家としての忙しい生活の中で、聖書の勉強に使える時間を見つけるのは難しかった。昼間は仕事に追われ、夜も遅くまで起きて仕事をしていた。日課は、昼間に寝て夕方6時に起き、翌日昼まで仕事を続けるというもの。しかし、聖書研究の時間を無理にでも作り、里上さんと一緒に学びを深めようとした。

そのとき、私は彼の話を聞くたびに、自分の中に新しい視点が芽生えていくのを感じていた。聖書の教えは、私がこれまで追い求めてきた「幸せ」の概念とはまったく異なっていた。それは、物質的な成功ではなく、心の中の静けさや無償の愛、他者への奉仕を大切にするものだった。

私の漫画が描く「幸せ」は、外的なものを手に入れることに重点を置いていたが、聖書の教えは内面的な成長と他者との絆を強調していた。自分を満たすために物質を追い求めるのではなく、他者と分かち合うことで真の幸福が得られるという教えに、私は深い安心感を覚えた。

聖書の教えを学び続けるうちに、私は自分の人生を見つめ直し始めた。名声や金銭が必ずしも幸せをもたらすわけではないことに気づき、私は何が本当のしあわせなのかを模索し始めた。里上さんやその母親のような人々が持つ精神的な豊かさに触れ、私は物質的な成功がそれほど重要ではないことを実感した。

聖書の教えに従って歩むことで、私は真の幸福が外的なものに依存することなく、内面の平穏や他者への愛から来ることを理解し始めた。それは、私が今まで追い求めていた「幸せ」とはまったく異なるものであり、もっとシンプルで深いものだと気づいた。

私は、今までの自分を少しずつ捨て、心からの変化を求めて歩み始めた。その歩みは、外的な成功や物質的なものを手に入れることよりも、もっと深い満足感を与えてくれるものであった。そして、私はようやく、真のしあわせの源に気づいたのでした。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...