上 下
1,573 / 1,690

『帰る場所』

しおりを挟む
『帰る場所』

かつて、我が海賊団の仲間は、ある島の岬で待ち続けているはずだった。あの日、あの時、私たちは深い海の中で生きることを決意した。だが、その決意が導いたのは、あまりにも過酷な運命だった。

「必ず帰る」と言ったあの約束。あれは私たちの命の中で最も大切な言葉だった。だが、どれほど船をこぎ進めても、風の具合も、海の流れも、すべては私たちを裏切り続け、全滅の運命に導いたのだ。

私は一人だけ、生き残った。死んだ仲間たちを背負い、絶望の中で漂い続ける日々。だが、唯一残されたものがあった。それは、あの小さなクジラ—ラブーンへの約束だ。仲間を置き去りにしたその日から、もう50年が過ぎた。

ラブーン…あの日の幼いクジラは、どれほど成長しているだろうか。もしかすると、今でも待っていてくれているのだろうか。私たちが帰ると信じて、彼は待っているのだろうか。あるいは、私たちが死んだと知って、もう何もかもを諦めてしまったのだろうか。

無責任にも、死んでしまった私たちは、今もその地で、約束を果たせないままでいる。その岬に、あの小さな命が、また私たちを信じて待っているのだろうと思うと、胸が張り裂けそうだった。

ラブーン、君に裏切りの言葉を送るつもりはない。ただ、もう戻れないという現実を受け入れなくてはならない。だが、それでも私には、君に伝えなければならないことがある。

「俺たち、帰れなかったんだ。」

数えきれない海の向こうに、無責任にも命を落とした私たち。だが、私がこの場に生きている理由はただ一つ、あの約束を果たすためだ。過去に戻ることはできないとしても、少なくとも、今、君に伝えるべきことがある。

私がラブーンに言いたいこと、それはただ一つ。

「待たせてごめん。」

あの約束を守ることができなかった。それでも、君がどれだけ私たちを信じて、どれだけ寂しく待っていたとしても、その気持ちは変わらない。君が待ち続けてくれていたなら、私は、無事に帰るために全力を尽くすべきだった。どんなに遠くても、どんなに時間が経っても、約束を守りたかった。

私は、死んだ仲間たちの分も、ラブーンに謝り、今の自分にできることをして、彼の元へ行くつもりだ。それが、私が生きる理由だから。

今、もしラブーンがどこかで待っているとしたら、そして私がこの場所に戻ったとき、彼の目の前に現れたなら、どんな顔をするだろうか。喜びに満ちた顔をするだろうか、それとも、悲しみに暮れるだろうか。

でも、私にはその目を見て伝えなければならない。彼に、彼にだけはこの言葉を届けたくて。

「ごめん。そして、ありがとう。」

約束は果たせなかったけれど、君が待っていたことを、私は忘れなかった。たとえどれだけの歳月が流れ、どれだけの時間が経ったとしても、ラブーン、君がいてくれたこと、そしてその約束を心に抱き続けたことを、私は一生大切にするよ。

だから、もし君がまだ待っているのなら、せめてその答えを、私から伝えに行く。必ず、今度こそ。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

お金持ちごっこ

春秋花壇
現代文学
お金持ちごっこは、お金持ちの思考や行動パターンを真似することで、自分も将来お金持ちになれるように意識を高める遊びです。 お金持ちごっこ お金持ちごっこ、心の中で、 夢見る未来、自由を手に、 思考を変え、行動を模倣、 小さなステップ、偉大な冒険。 朝の光が差し込む部屋、 スーツを選び、鏡を見つめ、 成功の姿、イメージして、 一日を始める、自分を信じて。 買い物リスト、無駄を省き、 必要なものだけ、選び抜いて、 お金の流れを意識しながら、 未来の投資を、今日から始める。 カフェでは水筒を持参、 友と分かち合う、安らぎの時間、 笑顔が生む、心の豊かさ、 お金じゃない、価値の見つけ方。 無駄遣いを減らし、目標に向かう、 毎日の選択、未来を描く、 「お金持ち」の真似、心の中で、 意識高く、可能性を広げる。 仲間と共に、学び合う時間、 成功のストーリー、語り合って、 お金持ちごっこ、ただの遊びじゃない、 心の習慣、豊かさの種まき。 そうしていくうちに、気づくのさ、 お金持ちとは、心の豊かさ、 「ごっこ」から始まる、本当の旅、 未来の扉を、共に開こう。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...