上 下
1,571 / 1,736

狭間で生きる

しおりを挟む
狭間で生きる

俺は「Z世代」でも「団塊の世代」でもない。ちょうどその中間にいる、どこか曖昧な存在だ。両方の時代に跨るということは、ある意味、良いことも悪いこともある。

スマートフォンが普及し、インターネットが日常の一部として当たり前になった時代に生きてきた。言葉では簡単に言い表せないが、情報が溢れ、ネットを使えば、どこでも誰とでも繋がることができる。それが当たり前のようになったのは、自分にとってはありがたいことである一方で、まるで風のように変わり続ける世界についていくことが、時に恐ろしいことだとも感じている。

俺は、会社で働きながら、休みの日には趣味で音楽をやったり、ネットの情報を追いかけたりして過ごしている。周囲の人々を見ていると、どこか生きづらさを感じることがある。俺の両親は団塊の世代。彼らは、まだテレビやラジオ、新聞が主な情報源だった時代に育ち、苦労してこの時代を作り上げてきた。物が足りなかった時代、何もない中で手に入れたものの価値を知っている人たちだ。

だが、そんな両親が言うには「今の若い人たちは、楽をしている」と。確かに、手に入れるものが簡単で、努力が必要な場面が減ったことを感じる。でも、彼らの時代にはなかった自由がある。それが、いまの俺たちには嬉しい反面、悩みの種にもなる。

俺の周りには、ネットで大きな影響力を持っている人たちがいる。彼らの投稿は何千、何万の「いいね」を集め、瞬く間に世間の話題となる。その反面、彼らが言っていることが本当なのか、それともただ目立ちたいための発言なのか、わからないことも多い。現実と仮想が入り混じり、何が本物で何が嘘か、見極めるのが難しい。

一方で、俺の両親やその友人たちにとっては、何もかもが「それが普通」だった時代がある。安定していて、目の前にあるものを信じるしかなかった時代だ。彼らが築き上げた社会では、目の前にあるものが確かなもので、それを信じることが当たり前だった。でも、今やその確かさが揺らぎ始めている。価値観が多様化し、何が「正しい」とされるかも簡単に変わる。

両親は時々、俺にこう言う。

「今の時代は、何でもすぐに手に入って楽でいいね。でも、もっとしっかりとした基盤を作らないと、将来が怖いよ」

俺は、その言葉に反論することもできるが、黙って聞くことが多かった。だって、両親が言っていることには一理あるからだ。現代のスピード社会では、安定を求めてもその先に見えるのは、常に新しい挑戦ばかり。求められるのは柔軟性であり、計画通りにいくことのほうが少ない。だが、その柔軟さを持ってしても、時々過去に戻りたくなることがある。

俺が育ったのは、インターネットが普及し始めた時期で、ゲームやSNSの進化に目を見張った。しかし、その反面、家族との時間や、周りの人との交流が疎かになっていった。物理的に近くにいても、心が遠くなることが増えていった。団塊の世代の人たちは、まだ直接会って話すことに価値を感じていた。その感覚は、俺たちの世代にはなかなか理解しづらいものだ。

ある日のこと、母が言った。

「昔の人たちは、何か問題があればすぐに顔を合わせて話し合った。だけど、今の若い人たちは、どうしてそんなに自分の意見だけを主張するのかしら。言葉は大切だよ」

その言葉に、俺は返事ができなかった。確かに、SNSの普及によって、人は自分の意見を発信しやすくなった。その一方で、直接話すことが少なくなり、相手を思いやる心が欠けているように感じることもあった。

「自分の意見だけを聞いて、相手を理解しようとしない。それが、今の時代の問題じゃないの?」

母の問いかけに、俺はただ黙っていた。その答えが見つからなかったからだ。でも、心の中で感じているのは、確かにこの時代にはバランスが必要だということ。自由に自分を表現することも大切だが、それと同時に、他者の意見にも耳を傾け、共に生きるために何が必要かを考えるべきだ。

俺がいる場所は、Z世代と団塊の世代の狭間だ。どちらにも完全に属することはできない。でも、それこそが俺の生きる場所なのだと思う。未来を見据えながらも、過去を理解し、今を生きる。その中で、俺は俺を生きていく。

そして、少しずつでも、両親のように、物理的な距離ではなく、心で繋がることの大切さを理解していけるように、これからも歩んでいくのだろう。

誰かが言っていた。「自分の生き方に、正解も間違いもない。ただ、他人の人生を生きることだけが、最も大きな間違いだ」と。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

季節の織り糸

春秋花壇
現代文学
季節の織り糸 季節の織り糸 さわさわ、風が草原を撫で ぽつぽつ、雨が地を染める ひらひら、木の葉が舞い落ちて ざわざわ、森が秋を囁く ぱちぱち、焚火が燃える音 とくとく、湯が温かさを誘う さらさら、川が冬の息吹を運び きらきら、星が夜空に瞬く ふわふわ、春の息吹が包み込み ぴちぴち、草の芽が顔を出す ぽかぽか、陽が心を溶かし ゆらゆら、花が夢を揺らす はらはら、夏の夜の蝉の声 ちりちり、砂浜が光を浴び さらさら、波が優しく寄せて とんとん、足音が新たな一歩を刻む 季節の織り糸は、ささやかに、 そして確かに、わたしを包み込む

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

感情

春秋花壇
現代文学
感情

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...