「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

文字の大きさ

大中小

1,536 / 1,690

自分だけのゴール

しおりを挟む

自分だけのゴール

大学卒業後、私は何をすべきか悩んでいた。周りの友人は皆、就職して順調にキャリアを歩み始めていた。だが、私は漠然とした不安を抱えたまま日々を過ごしていた。自分が本当に何をしたいのか分からず、進むべき道が霧の中に隠されているようだった。

そんなある日、学生時代の友人であるリサから連絡が来た。彼女は地元の企業で働きながら、自分の趣味であるハンドメイドアクセサリーを販売しているという。「自分の好きなことを仕事にするのが夢だった」と言うリサは、まるで自分の道をしっかりと歩んでいるように見えた。

「なんだかキラキラしてるよね、リサは」と私は口に出してしまった。

リサは少し笑って、こう答えた。「私だって最初は何をしたいか分からなかったよ。でも、ゴールって最初から見つかるものじゃないと思う。どんな形であれ、自分で作り上げていくものなんじゃないかな？」

その言葉が胸に深く響いた。リサは自分で目標を作り、そのために一歩一歩進んでいるのだ。その夜、私はベッドの中で、これまでの自分を振り返りながら考えた。周りの成功や目標を真似するのではなく、私自身が本当にやりたいことを作り上げていくことが大切なのかもしれない、と。

次の日から、私は自分の興味や好きなことを少しずつ探し始めた。学生時代から好きだった写真をもう一度始めようと、カメラを手に取った。自然の風景や街の風情、友人たちの何気ない表情を撮ることで、心が満たされていくような感覚があった。

撮りためた写真をSNSに投稿すると、思いがけず「素敵な写真ですね」とコメントがついた。見知らぬ誰かが私の写真を楽しんでくれている。それが何だか嬉しくて、私はさらに撮影にのめり込んでいった。

やがて、小さな写真展を開くことを思い立った。ギャラリーを借りるための準備や、展示のための資金を集める必要があったが、ここで初めて「目標に向かって自分で動く」ことの難しさと楽しさを感じた。

準備期間は、毎日が新しい挑戦の連続だった。写真の構図や展示のレイアウト、来場者を楽しませるための工夫など、考えることは山のようにあった。しかし、そのすべてが私にとっては新鮮で、自分の目標が形を成していく実感があった。

数ヶ月後、ついに写真展の初日を迎えた。会場には友人や知人、そしてSNSを見て興味を持ってくれた人たちが訪れてくれた。自分の写真が誰かの心に何かを届けられているかもしれないという実感に、胸がいっぱいになった。

一人の来場者が、私の写真を見ながら言った。「この写真、とても心に残ります。あなたの写真には、どこか温かさがありますね。」

その言葉に、私は自然と笑みがこぼれた。自分の目標を自分で作り上げて、その道を歩んでいる今、私はようやく自分らしいゴールに向かっているのだと実感した。

写真展が終わった後も、私は次の目標に向かって進み続けた。写真だけでなく、新しいテーマで物語を伝える方法も模索していった。そして、いつしか「自分のゴールは見つかるものでも与えられるものでもなく、自分で作るもの」というリサの言葉が、私の心の中で確かな信念となっていた。

誰かが与えた道ではなく、自分の手で作り上げたゴール。その過程で得た喜びや達成感、そして人と繋がる温かさが、私にとっての何よりの宝物となった。

終わり

しおりを挟む