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春秋花壇

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闇将軍

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「闇将軍」

夜の闇が広がる大陸。厚い霧が立ち込め、冷たい風が乾いた大地を撫でる中、森の奥深くに一つの城がひっそりと佇んでいた。その城の名は「黒月城」。人々はその名を恐れ、誰一人としてその近くを通る者はなかった。

黒月城の主、闇将軍シェルダンはその姿を知られていない。人々が語る彼の姿は、ただの噂に過ぎなかった。血に染まった鎧を纏い、冷徹な目で敵を切り捨てる戦の神のような男だという。しかし、真実は異なる。

シェルダンはかつて、名もなき村の出身だった。幼少期から剣の使い手として名を馳せ、数々の戦を勝ち抜いてきた。だが、彼が闇に足を踏み入れるきっかけとなったのは、家族の死だった。

あれは十年前のこと。彼の村は突如として異国の軍勢に襲われ、家族を失った。村人たちは皆殺しにされ、家は焼き払われ、何もかもが灰となった。その中で唯一生き残ったシェルダンは、復讐の炎に身を焼かれながら、闇の力に魅入られた。

その力は、禁断の魔術に由来していた。伝説の魔術師が残した呪文書を手に入れたシェルダンは、その力を使って力を増し、ついには闇の将軍として名を馳せるようになった。だが、どんなに力を得ても、彼の心には家族を失った悲しみと憎しみが消えることはなかった。

「我が力を求める者よ、どうしてこの闇を恐れぬのか？」
シェルダンは夜の城の大広間に立ち、空を見上げながら呟いた。その目は、どこか遠くを見ているようだった。

彼が目指すのは、ただ一つのこと――彼の家族を殺した者たちへの復讐。それが彼の全ての動機だった。しかし、復讐が進むにつれて、シェルダンは次第にその目標が崩れ去るのを感じていた。

「復讐は終わりを迎えるべきか、続けるべきか…」
彼の心の中で、戦い続けることへの虚無感が広がっていった。だが、そんな思いを彼にかける暇もなく、城の扉が開かれた。

「将軍、報告です。」
城の門番が駆け寄ってきた。彼の顔には緊張が浮かんでいる。

「何かあったか？」
シェルダンはその場から動かず、冷たく答えた。

「異国の軍が、ついに近づいてきています。我々の領土を侵略するつもりのようです。」
その言葉に、シェルダンの目が鋭くなった。

「侵略者か。」
彼は短く呟き、周囲の者たちに指示を出し始めた。「戦の準備をしろ。闇の力を解き放つ時が来た。」

シェルダンが再び、闇の力を使う時が来た。彼の中で暴れ回る復讐心と、冷徹な将軍としての責任感が交錯していた。だが、どこかで彼は知っていた。この戦いが終わった後、何もかもが終わると感じていた。

戦が始まった。シェルダンの軍は、彼の力を駆使して一度も敗れることなく、敵軍を圧倒していった。しかし、戦の最中、彼はふと気づいた。戦の後には何も残らない。家族の死を乗り越えることができても、復讐を果たしても、何も心は満たされなかった。

彼は戦場の最前線で、突如として足を止めた。冷たい風が彼の頬を撫で、彼の胸を重くする。見上げた空は、すでに星が輝き始めていた。

「この戦いを終わらせた先に、何が待っているのだろうか。」
シェルダンはその問いに答えを見つけることができなかった。彼が求めていたものは、もはや過去のものだった。

戦が終わった。シェルダンは無敵の将軍として、再び静かな城に戻った。彼の手のひらには、かつて望んだ力が残っていたが、もうその力に意味はなかった。

彼は一人、黒月城の塔の上に立ち、再び夜空を見上げた。闇の中に浮かぶ月を、ただ見つめる。

「闇の将軍として、どれだけのものを守ったのだろうか。…そして、どれだけのものを失ったのだろうか。」
その問いに対する答えは、どこにも見当たらなかった。

闇将軍シェルダンは、最後に一つの言葉を口にした。「我が名は、もう誰にも届かない。」

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