「俺は小説家になる」と申しております

雪が隠す心

「雪が隠す心」

降り始めた雨が夜の冷え込みで雪に変わり、静かなカフェの窓越しに外を見つめる彼女の視線に、静かに雪が降り積もるような思いが広がっていた。彼がやってくるはずの時間を過ぎても、彼の姿はない。曇りがちな窓に指を滑らせながら、彼女は白くぼやけた景色に自分の心を重ねた。

指先で触れたハートのイヤリング。彼女は、彼が自分に対して少しでも興味を示してくれることを願っていたが、彼の態度はいつも冷めているように感じていた。「やきもちを焼いてほしい」「叱ってほしい」と心の奥で願う彼女に対し、彼は無関心に見えた。噂話で聞いた彼の浮気疑惑が、本当なのか確かめたかったが、口にする勇気が持てなかった。彼を失うのが怖かったのだ。

彼女は心の中でふとつぶやく。「彼を忘れるために、遠くへ行ってしまおうか」。想像の中で、真っ白な雪に包まれた山の頂上に立つ自分が見えた。雪がすべてを隠してくれるなら、彼への未練も忘れられるかもしれない、と願った。

カフェを出ると、彼女はイヤリングを耳から外し、雪の上にそっと置いた。それは彼女の「愛してほしい」という願いを捨てる決意の表れであり、彼への依存から解放されるための象徴でもあった。雪の中に消えていくイヤリングを見つめながら、彼女は「春になれば、彼のことを忘れられる」と自分に言い聞かせた。

春の訪れと共に、彼女は彼を忘れようと心に決め、新しい道を歩もうとしていた。その時、不意に彼から連絡が入り、「会いたい」と告げられる。驚きと共に彼女の心は揺れたが、彼がカフェに現れた時、彼の手にはかつて彼女が捨てたハートのイヤリングが握られていた。

「君を忘れられなかった」と言う彼の言葉が、彼女の胸を強く打った。彼もまた彼女を想っていたのだと知った瞬間、二人の間にあった心の壁は溶けていった。

雪がすべてを隠し、春の陽光がすべてを解きほぐしてくれるように、彼らは新たな始まりを迎えたのだった。