「俺は小説家になる」と申しております

人生とは自分探しをすることではない。 人生とは自分を創ることである

人生とは自分探しをすることではない。 人生とは自分を創ることである

「自分を創る旅」

佐藤陽介は、ある日突然、自分の人生に対する違和感を覚えた。社会に出てから十数年、毎日同じような日々が繰り返されていた。朝起きて、電車に乗り、会社で仕事をこなし、夜には疲れ果てて帰宅する。週末になれば一時的な解放感を味わうものの、またすぐに同じ生活が始まる。そんな日々が積み重なる中で、陽介はふと、自分が何のために生きているのか分からなくなった。

「これが本当に俺の人生なのか？」

その問いが、心の奥でじわじわと広がり始めたのは、ある秋の夕暮れ時だった。窓から射し込む橙色の光が、オフィスの壁に優しく揺らいでいるのを見ながら、陽介はぼんやりと考えていた。

「自分探しって、何なんだろう？」

周りの友人たちはみな、人生の目標や自分の存在意義を探しに旅立つようなことを口にしていた。誰かはインドに行き、誰かは起業して自分のビジョンを追い求めている。けれど陽介には、そういった「探し物」が見つからなかった。

その夜、陽介は駅の近くのバーでひとり酒を飲んでいた。周りには疲れたサラリーマンたちが笑い合い、ストレスを発散している。だが、彼の心の中には違和感が拭いきれない。

「自分探しなんて、無駄なことだと思うよ。」

突然、隣に座っていた男が声をかけてきた。年配のその男は、無造作に灰皿に煙草を押しつけながら、陽介を見つめた。

「君、悩んでいるように見えるけどさ、探すことなんか何もないんだよ。」

陽介は驚いて、その男を見た。「え？ どういうことですか？」

男は苦笑しながら、グラスを傾けた。「人生ってのは、探すもんじゃなくて、創るもんなんだよ。自分探しなんて言葉に惑わされる必要はない。自分を作るんだ、自分の手で。」

「自分を作る？」陽介は、その言葉に引っかかった。

「そうさ。何かを探して見つけるんじゃなくて、自分がどうなりたいか、何をしたいかを自分で決める。それが自分を作るってことだよ。」

その言葉は、陽介の心に深く響いた。自分探し、自己啓発、人生の意味――それらがすべて一つの線上にあるものだと思い込んでいたが、男の言葉は、その考え方を根底から覆した。探すのではなく、創る。自分が何者になるのかを決めるのは、自分自身だ。

「でも……どうやって自分を創るんですか？」陽介は疑問を口にした。

男はもう一度、煙草に火をつけ、煙をゆっくり吐き出した。「簡単なことさ。まずは、自分が本当に何をしたいのかを考える。そして、そのために必要なことを一つ一つ積み重ねていくんだ。完璧なんて目指さなくていい。少しずつでいいから、自分の未来を自分の手で作り上げていくんだ。」

その夜、陽介は家に帰り、静かに考えた。これまで、ただ流されるように生きてきた。会社の仕事も、人間関係も、すべてが「与えられたもの」だった。それが悪いわけではない。しかし、これからは自分で選び、積み上げていく人生を歩もう。探し求めるのではなく、自分自身を形作る。

翌日、陽介は会社に行く前に一つの決意を固めた。仕事の時間以外にも、何か新しい挑戦を始めようと。彼がかつて夢見ていたこと――それは、料理だった。大学時代、少しだけバイトをしていたレストランでの経験が、彼の中に残っていたのだ。料理を通じて、人々を喜ばせる。その感覚が好きだった。

「小さなことでもいいから、まずはやってみよう。」

その日の仕事を終えると、陽介はすぐに料理教室の申し込みをした。そして、毎週末、その教室に通い始めた。包丁の使い方、火の加減、そして食材の選び方。基本的なことから学んでいく中で、陽介は少しずつ自分の心に新しい力が湧いてくるのを感じた。

月日が流れ、陽介の生活は少しずつ変わっていった。料理教室で出会った仲間たちと共に、料理を楽しむ時間が増えた。そして、その料理を通じて、新しい繋がりや喜びを見つけることができた。

「自分を作る」という言葉の意味が、少しずつ理解できるようになってきた。探し求めるのではなく、与えられたものの中で、どう自分を成長させていくか。陽介は仕事と趣味、そして人との関わりを通じて、自分を形作り始めていた。

ある日、ふと思い出したように、あのバーで出会った男の顔が頭に浮かんだ。

「ありがとう」と心の中で呟いた。彼との出会いがなければ、今の自分はいなかったかもしれない。自分を探すのではなく、自分を作り上げていく。そう、人生は自分次第なのだ。

陽介は窓の外を見上げ、満ち足りた気持ちで空を眺めた。彼はこれからも、自分を創り続けるだろう。そして、どんな未来が待っていようとも、自分の手で切り開いていくと決めたのだ。