上 下
1,278 / 1,690

「階段って上るだけじゃないんだね」

しおりを挟む
「階段って上るだけじゃないんだね」

夜のビルの中、奈緒はエレベーターの故障で仕方なく非常階段を使って上の階へと進んでいた。暗闇の中、コツコツと響く足音が彼女の不安を煽る。12階建てのビルだが、階段を上り始めてすぐに息が切れ、何度か手すりに手を置き、ため息をついた。

「階段ってこんなに長かったっけ?」

体力的な疲労だけでなく、何か不穏な気配が奈緒を襲い始める。薄暗い非常灯の下、いつもとは違う異様な静けさが、彼女の背中に寒気を走らせた。

6階にたどり着いた時、ふと何かに気づいた。先ほどから、ずっと同じ階を歩いているような感覚がする。6階のプレートが何度も目に入ってくるのだ。足を止め、周囲を見渡すが、どのフロアも見分けがつかない。階数を示す数字以外、すべてが同じだった。

「おかしいな……。ずっと上ってるはずなのに……」

彼女の足は再び6階へと導かれていた。まるでこの場所から出られないかのような錯覚を覚え、軽いめまいがする。焦燥感が膨らみ、携帯を取り出す。だが、電波が途切れていて誰にも連絡が取れない。

その時、下から微かに足音が聞こえてきた。人の気配にほっとしたものの、その足音は規則的でどこか機械的だ。何かに追われているような恐怖心が胸に広がる。奈緒は、急いで階段を駆け上がり始めた。

「上に行けば、誰かいるはず!」

しかし、上れば上るほど足音は近づいてくる。振り返ってみるが、階段の暗闇には何も見えない。それなのに、確かに音は響き続けている。何かが彼女を追いかけている……その思いが膨らむたび、恐怖で足が震えた。

やっとのことで10階にたどり着いた時、ふいに音が消えた。静寂が戻るが、それが逆に不気味だった。何かが変だ。息を整えながら、彼女はゆっくりと後ろを振り返る。しかし誰もいない。

「気のせいだったのかな……」

その瞬間、頭上からガタンと何かが崩れる音が響き渡った。上の階で何かが起きている。胸の鼓動が早まり、奈緒は再び階段を駆け上がる。11階、そして12階へ……しかし、到着した12階は真っ暗だった。非常灯も点いておらず、辺りは静まり返っている。

「ここ、違う……」

恐怖が頂点に達したその時、奈緒はふと視界の隅に奇妙なものを見つけた。階段の隅に何かが転がっている。彼女は慎重に近づき、しゃがみ込む。そこには古びた鍵が落ちていた。

その瞬間、背後から冷たい息が首筋を撫でた。「階段は、上るだけじゃないんだよ……」低く囁く声が耳元で聞こえた。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

お金持ちごっこ

春秋花壇
現代文学
お金持ちごっこは、お金持ちの思考や行動パターンを真似することで、自分も将来お金持ちになれるように意識を高める遊びです。 お金持ちごっこ お金持ちごっこ、心の中で、 夢見る未来、自由を手に、 思考を変え、行動を模倣、 小さなステップ、偉大な冒険。 朝の光が差し込む部屋、 スーツを選び、鏡を見つめ、 成功の姿、イメージして、 一日を始める、自分を信じて。 買い物リスト、無駄を省き、 必要なものだけ、選び抜いて、 お金の流れを意識しながら、 未来の投資を、今日から始める。 カフェでは水筒を持参、 友と分かち合う、安らぎの時間、 笑顔が生む、心の豊かさ、 お金じゃない、価値の見つけ方。 無駄遣いを減らし、目標に向かう、 毎日の選択、未来を描く、 「お金持ち」の真似、心の中で、 意識高く、可能性を広げる。 仲間と共に、学び合う時間、 成功のストーリー、語り合って、 お金持ちごっこ、ただの遊びじゃない、 心の習慣、豊かさの種まき。 そうしていくうちに、気づくのさ、 お金持ちとは、心の豊かさ、 「ごっこ」から始まる、本当の旅、 未来の扉を、共に開こう。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...