上 下
1,271 / 1,459

おやじのビール、俺の人生

しおりを挟む
おやじのビール、俺の人生

「おい、もうちょっと早く帰って来いよ!」と、ドアを叩く音が響いた。僕、タカシはソファの上でだらしなく横たわって、テレビの画面に映るゴミみたいなリアリティ番組をぼんやり眺めていた。母親の声が耳に届くたびに、「わかってるよ、もうすぐ帰るから」と適当に返事をするけれど、本当は何もする気がなかった。

もうすぐ二十歳になるってのに、毎日家でゴロゴロして、何もやる気が起きない。未来なんて考えたくもないし、仕事なんか興味ない。だから、今日もこうして家でただ時間を無駄にしている。

「おい、どうした!ビール買って来いって言ってるだろ!」

母親の声がさらに響く。どうせまた、父親がビールを飲みたくなって、夜中に冷蔵庫から取り出して飲むのだろう。自分が退屈しのぎに適当に飲むために、息子に買い物させるというわけだ。

ため息をつきながら、僕は重い体を起こし、部屋から出た。外は雨が降っていて、アスファルトの上にぽつぽつと水たまりができている。冷たい風が頬を刺すような気がして、ただでさえやる気がないのに、ますます面倒くさくなった。

「なんでこんなことしなきゃいけないんだ?」と、つぶやきながらコンビニに向かう。店内に入ると、ビールの棚の前で立ち止まり、選びながらもどこかぼんやりしている自分に気づく。普段なら何も考えずに済ませられることが、今日に限っては妙に面倒に感じる。

結局、適当に選んでビールを持ち帰り、家に着くと、また母親がうるさく言ってくる。「おかえり、遅いじゃない!」

「すみません、買い物に時間がかかっちゃって。」と、僕は小さな声で答えた。母親はビールを取り出し、父親の元に持って行く。

「これでよし、ちゃんと飲んでなさい。」と、父親が僕に言った。返事をする気力もなく、僕はまたソファに戻った。

「こんな生活、いつまで続けるんだろう?」と、自問自答しながら、テレビの画面に目を向ける。アホみたいなリアリティ番組が流れていて、何の価値もないことを真剣にやっている人たちが画面に映っている。

「俺もこんな感じなのかな?」と、ふと思う。何も変わらない日々を繰り返すだけの人生。それが本当に自分の望む人生なのか、はっきりとした答えがないまま、ただ流されているだけだ。

そのうち、テレビの音も耳に入らなくなり、僕はただボーッとしたまま時間が過ぎていくのを感じていた。雨の音が、外から静かに聞こえてくるだけだった。

夜が更けると、家の中も静かになり、やっと母親と父親もそれぞれの部屋に戻って、静かな時間が流れ始めた。僕は、また自分の部屋に戻り、ソファに寝転がりながら天井を見上げた。

「何か変わらないといけないんだろうな」と、頭の中で考えるものの、その「何か」が具体的にどうすれば良いのかは分からないままだった。こんな生活が続いている限り、何も変わることはないのだろう。

結局、僕はただ、どこかで自分の居場所を見つけるために、少しでも前に進む勇気が持てる日を待つしかないのかもしれないと思いながら、目を閉じて眠りについた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋
現代文学
生きることは辛くはない 世界はただ、丸く回転している 生ゴミみたいなノスタルジック 「メクる」「小説家になろう」掲載。 イラスト:Odd tail 様 ※ごく一部レーティングページ、※←あり

ホモではない人

すごろく
現代文学
差別的な話。

あおとみずいろと、あかいろと

蒼真まこ
現代文学
私は、父と母の愛を知らない。けれど悲しいと思ったことはなかった。大好きなおじさんが傍にいてくれたから──。 父の双子の兄である青葉おじさんに育てられた私は、幸せに暮らしていた。実の父である水樹が突然海外から帰国するまでは。 「私を捨てて海外に行ってしまったくせに……」 今更「お父さん」なんて呼びたくない。 私と父の和解を望む青葉おじさんの気持ちを考え、どうにか父親を受け入れようとした。 けれど父の水樹は衝撃の告白をする。 「俺は朱里を殺そうとした。おまえは俺を、一生許してはいけない」  私がいらない子だから、父は私を捨てたの? おじさんの言葉も信じられなくなった私は家を飛び出し、同級生の少年海斗に救いを求める。 ぶっきらぼうだけど優しい海斗に支えられながら、私はおじさんと父に向き合うことを決めた。 「全部話すよ。朱里の母親のことも、僕たち兄弟のことも」 父とおじさんは語る。 それぞれに青春と出会い、切ない別れがあったことを。 そして私は、生まれてきた意味と生きていく尊さを知る──。   不可思議な絆で結ばれた双子の兄弟、 その娘の朱里と、今は亡き母の桃子。 これはとある家族の、絆と再生の物語。 章ごとに視点が変わっていきます。 第一章は主人公の朱里 第二章は朱里のおじさんである青葉 第三章は朱里の実父である水樹 第四章で視点は再び朱里に戻り、完結へと進みます。 ※エブリスタと小説家になろうにも掲載していますが、こちらは改稿版となります。

佳奈子がつづる、四季ごとの ’ ほっこりポエム ’

リチャード・ウイス
現代文学
季節の移り変わり・・美しいです。それとともに、西村佳奈子さんがつくった、心がほっこりする詩を、わたくしリチャードが選者となりご提供いたします。彼女の詩では、ちょっとしたことが、嬉しさや喜びでつづられています。 で、佳奈子さんとは・・だれなの? そうお思いになる方も多くいらっしゃいましょう。彼女は、私 リチャードウイスが書いた小説「それでもあなたは銀行に就職しますか~彰司と佳奈子の勉強会~」に毎回でてくる、入社五年目の銀行OL。素敵な方です。

エロくて綺麗なババアがエロくて綺麗な理由を考える話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

彼女は処女じゃなかった

かめのこたろう
現代文学
ああああ

死んだあとでも褒められたかった

菜花
現代文学
ある平凡な女性が死んだあと、幽霊になって周りの人々に会いに行く話。その女性は割と頑張ったから労わりの言葉くらいかけてもらえるだろうと思っていたが……。

処理中です...