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朝日にきらめく水滴の輝き

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朝日にきらめく水滴の輝き

小さな村の外れにある丘の上には、古びた木造の家がぽつんと建っていた。そこには祖母が住んでいて、夏休みになると私は毎年この家に遊びに来ていた。庭は広く、緑が溢れ、そこには見慣れた草花が風に揺れていた。朝のひんやりとした空気の中で、私はまだ寝ぼけたまま縁側に座り、景色をぼんやりと眺めていた。

「おはよう、春菜。」祖母の声に振り返ると、庭で水やりをしている彼女の姿が目に入った。水差しからこぼれる水がキラキラと輝き、まるで宝石のように朝日を反射していた。その光景はいつもと同じなのに、何か特別なものを感じさせた。

「おばあちゃん、おはよう。」私は挨拶を返しながら、眠気を払いのけるように大きく伸びをした。祖母は小さく笑って「今日は早起きだね」と言いながら、水差しを持ったまま近づいてきた。

「うん、なんだか目が覚めちゃって。」私は自分でもよくわからないまま、早く目が覚めた理由を考えていた。もしかしたら、この村の静かな朝が心を落ち着かせてくれたのかもしれない。

庭には朝露が降り、草木はその露を浴びていきいきと輝いていた。特に、祖母が大切にしている紫陽花の花には、無数の水滴がまとわりついていて、それがまるで小さなランプのように光っていた。私はその光景に見入ってしまい、思わず足を庭に踏み入れてしまった。

「春菜、気をつけてね。まだ草が濡れているから。」祖母の声が私の耳に届いたが、私はもう既に濡れた草を踏んでいた。冷たい感触が足元から伝わり、心地よい目覚めを感じさせる。私は祖母の言葉に笑って「大丈夫だよ」と返事をした。

その時、ふと私は何かを思い出したように振り返った。「ねぇ、おばあちゃん。この庭ってどうしてこんなに綺麗なんだろう?」昔から綺麗だったこの庭が、今日は特別に輝いて見える。それがなぜか気になったのだ。

祖母は少し考えるようにしてから、優しく微笑んだ。「そうだね、きっとお日様と水のおかげだよ。植物はちゃんとお世話をすると、それに応えてくれるんだよ。」

私はその言葉を噛みしめながら、もう一度庭の景色に目を向けた。水滴が葉や花にしがみついて、太陽の光を浴びて輝いている様子が、何とも言えない美しさだった。その時、私は不意に自分の心が温かくなるのを感じた。祖母の言う通り、植物はその日差しと水の恵みを受けて、こうして朝露の光を放っているのだ。

祖母がもう一度水差しに水を汲みに行ったのを見届けて、私は庭の中央にある小さな池のそばに座った。水面には朝日が反射していて、小さな波紋が広がるたびにキラキラと輝いている。その光景を見ていると、どこか遠い昔の思い出が蘇るような気がした。

「そういえば、小さい頃はここでよく遊んだっけ。」私は独り言のように呟いた。祖母がよく作ってくれたおにぎりを食べながら、ここでずっと遊んでいた記憶がぼんやりと蘇ってきた。池の中には小さな魚が泳いでいて、それを眺めては時間を忘れていたことを思い出した。

しばらくして祖母が戻ってきて、私の隣に腰を下ろした。「懐かしいね、春菜が小さい頃からここで遊んでたのをよく覚えてるよ。」

私はうなずいて、「うん、あの時は毎日が冒険だったよ。」と笑った。祖母は優しい目で私を見つめ、「そうね、春菜は本当に元気だったね。毎日何か新しいことを見つけては楽しんでいたのを思い出すよ。」と語った。

私たちはしばらく黙って、ただ水面に輝く光を見つめていた。その間、祖母の手がそっと私の手に触れた。温かくて、少ししわくちゃなその手の感触に、私は不意に胸がいっぱいになった。

「おばあちゃん、ありがとう。こんな素敵な場所をずっと守ってくれて。」私は感謝の気持ちを込めて言葉を紡いだ。祖母は優しく微笑み、「こちらこそ、春菜がこうしてまた来てくれるのが何よりも嬉しいんだよ。」と言った。

朝日はますます強くなり、水滴の輝きも一層増していく。私たちはその光景を共有しながら、静かな時間を楽しんでいた。きっと、この場所はこれからも変わらずにあり続けるだろう。祖母の手によって守られてきたこの庭は、これからも誰かの心を温かく包み込んでくれるに違いない。

その日の朝、私は新たな決意を胸に抱いていた。これからも、祖母とこの庭のように、大切なものを守り続けたいと。朝日にきらめく水滴のように、何気ない日々の中にある小さな輝きを見つけ続けていこうと、私は心に誓ったのだった。










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