「俺は小説家になる」と申しております

ピンクじゃない悩み

「ピンクじゃない悩み」

18歳の夏、ユカリは鏡の前でため息をついた。彼女は高校生としての最後の夏休みを楽しんでいたが、自分の身体のことが気になって仕方なかった。特に、乳首の色やそこに時折生えてくる毛に対する不安が心の中で渦巻いていた。

部活が終わり、友人たちとカフェに寄ったとき、ちょっとした会話の中で「ピンクの乳首」の話題が出た。友人たちは無邪気に笑いながら、雑誌やネットで得た情報を元に話をしていたが、ユカリはその会話が自分を刺すように感じた。自分の乳首はピンクなんかじゃない。薄茶色っぽくて、何だか「理想」とされるイメージとはかけ離れている気がした。

「ユカリ、どうしたの？元気ないね」と、友人のミサが声をかけてきた。

「ううん、なんでもない」とユカリは笑顔を作りながら答えたが、内心では胸の奥がざわついていた。

帰宅後、ユカリは再び鏡の前に立った。シャワーを浴びた後、バスタオルを巻いて鏡を見つめる。何度見ても変わらない。雑誌で見た「理想のバスト」とは違う現実の自分。ピンクの乳首じゃないし、何より時々毛が生えてくる。それが嫌でたまらなかった。

ユカリはスマホを手に取り、ネットで「乳首　ピンクじゃない　原因」と検索した。すると、数多くの結果が出てきて、「遺伝」「ホルモンバランス」「肌の色素」といった言葉が並んでいた。中には「美白クリームを使う」「レーザー治療を受ける」といった方法も紹介されていたが、高校生のユカリには手の届かないものでしかなかった。

それでも、ある記事が彼女の心を軽くした。「乳首の色は個性であり、美しさに影響するわけではない。大切なのは自分を受け入れること」という言葉が心に響いた。周りの理想に振り回されず、自分の身体をそのまま愛すること。ユカリはその記事を読んでいるうちに、少しずつ自分の悩みが小さくなっていくのを感じた。

次の日、学校でミサと再び会った。ユカリは勇気を出して、自分の悩みを打ち明けることにした。最初は恥ずかしかったけれど、ミサは真剣に聞いてくれた。

「ユカリ、それって全然変なことじゃないよ。みんな違うんだからさ。私も、自分の身体に自信なんて全然ないし…」と、ミサもまた自分の悩みを語ってくれた。

その瞬間、ユカリは一人じゃないんだと感じた。自分の悩みは他人から見れば些細なものかもしれないけれど、自分にとっては大きな問題だった。でも、それを誰かと共有することで、心が軽くなるなんて思ってもいなかった。

ミサと話した後、ユカリはふと思った。大切なのは、誰かの理想に自分を当てはめることじゃない。自分の身体を受け入れ、ありのままの自分を大切にすること。それが一番の解決策なんだと、ようやく理解できたのだ。

その夜、ユカリはもう一度鏡の前に立った。前日の自分と同じように見えるけれど、心の中では少しだけ違う感覚があった。鏡に映る自分をじっと見つめて、ユカリは小さく笑った。

「これが私なんだ」——そう心の中で呟いたその瞬間、ユカリは少しだけ強くなれた気がした。もう乳首の色や毛のことで自分を責めることはしないと決めた。大事なのは、他の誰かの目ではなく、自分の目で自分をどう見るかだから。

それからというもの、ユカリは周りの話に流されることなく、自分の身体を大切にするようになった。悩みが消えたわけではないが、それでも「自分は自分」であることに誇りを持ち始めたのだった。そして、それこそが本当の意味で「美しい」ことなのだと、ユカリは気づき始めていた。