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小説家を目指しているのに失読症?

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小説家を目指しているのに失読症?

「また間違えた……」

玲奈は静かなカフェの片隅で、ため息をついた。目の前にはノートパソコンが開かれており、画面には執筆途中の小説が映し出されている。しかし、その文字たちは彼女にとっては乱れたパズルのようで、どれも形が崩れ、理解するのが難しかった。玲奈は「失読症」、一般的にはディスレクシアと呼ばれる学習障害を持っていた。

彼女が小説家を目指す道を選んだのは、幼い頃からの夢だった。物語を作ることが好きで、頭の中に広がる世界を形にするのが楽しかった。だが、成長するにつれて、自分の読むスピードが遅いことや文字が跳ねたり消えたりする感覚が他の人とは違うと気付くようになった。学校のテストでは、文章を読むのに時間がかかり、周りの友達が次々と問題を解いていくのを横目で見ることしかできなかった。教師からの評価も低く、「努力が足りない」と何度も言われた。その度に彼女の心は傷つき、自信を失っていった。

しかし、玲奈は諦めなかった。小説を書くことは、彼女にとって唯一の救いだった。彼女は他の誰よりも多くの時間を費やして、文字と向き合った。ゆっくりと、一つ一つの単語を確認しながら書くことで、物語を少しずつ進めていった。読みづらい文章を読み解くために、音声読み上げソフトや色付きの定規など、あらゆるツールを使って自分なりの方法を見つけた。

今日も、玲奈はカフェで執筆を続けていた。しかし、文字が跳ね回り、集中が途切れる度に、彼女は苛立ちを感じた。何度も何度も書き直しをしても、完璧な文章にはならない。自分の思い描く世界を正確に伝えたいのに、その道のりは果てしなく遠く、険しい。

「どうして私はこんなに書くのが遅いんだろう……」玲奈は頭を抱えた。彼女の目に涙が浮かんでいた。努力しても結果が伴わないことに、何度も打ちのめされてきた。何度も「自分には向いていない」と感じてしまう。けれど、それでも筆を止めることはなかった。玲奈は書くことが好きだった。その気持ちだけは、誰にも奪えない。

「ごめんなさい、時間をかけすぎちゃって……」

カフェの店員が声をかけてきた。閉店の時間が迫っていることを知らせるためだ。玲奈は慌ててノートパソコンを閉じ、荷物をまとめた。外はもう暗く、秋の冷たい風が吹いていた。彼女は家路を急ぎながら、ふと立ち止まって夜空を見上げた。星一つない空に、一筋の光を求めるように。

玲奈の頭の中にはまだ書きかけの物語が広がっていた。自分の中で完結するだけの物語なら、誰にも迷惑をかけない。でも、玲奈はその物語を誰かに届けたかった。自分の感じたこと、想像した世界、それらが誰かの心に届くことを夢見ていた。失読症であることは玲奈の一部だが、それが全てではない。玲奈には物語を作る力がある。それだけは信じていた。

家に帰ると、玲奈は再びパソコンを開いた。時計の針は深夜を指していたが、彼女は書き続けることを選んだ。何度も間違えたっていい。ゆっくりでも進んでいけばいい。玲奈の手は少し震えていたが、それでもキーボードを打つ指先には確かな決意があった。

画面の向こう側で、彼女の物語が少しずつ形になっていく。その文字たちは、不格好で途切れ途切れかもしれない。それでも、玲奈はその一つ一つに命を吹き込んでいた。誰かに読まれることを願って、今夜も彼女は物語を書き続ける。

玲奈は知っている。自分が特別速く読めないことや、他の人が簡単にできることが自分には難しいこと。それでも、小説を書くという夢を諦めるつもりはない。どれだけ時間がかかろうとも、どれだけ失敗しようとも、彼女は筆を止めない。玲奈にとって、物語を紡ぐことは生きることそのものだった。

やがて、玲奈の書いた物語が一つ完成した。小さな成功だが、彼女にとっては大きな一歩だった。玲奈はパソコンの画面を見つめ、そっと微笑んだ。そして次のページに向かうため、また指を動かし始めた。彼女の中にある物語が、今日もまた新たに紡がれ始める。

玲奈の道はまだまだ続いていく。その先にどんな困難が待ち受けているかはわからない。だが、玲奈は信じている。自分の物語が、いつか誰かの心に届くことを。たとえゆっくりでも、たとえ遠回りでも、彼女の足は止まらない。小説家を目指す道のりは、玲奈にとって一番の挑戦であり、一番の楽しみでもあるのだから。







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