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春秋花壇

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伊良部大橋トリップ

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伊良部大橋トリップ

夏の終わりを告げるように、真っ青な空が広がっている。空気は湿り気を帯びていて、どこか懐かしい潮の香りが漂っていた。17歳の奈々(なな)は、宮古島の空港に降り立った。都会の喧騒から離れて、この島に来たのは、何か特別な理由があったわけではない。ただ、夏休みの最後に何か思い出を作りたかったのだ。

「とりあえず、伊良部大橋に行こうか」

地元で人気の観光スポットだと聞いて、奈々はタクシーの運転手にそう伝えた。運転手は気さくな笑顔で頷き、「伊良部大橋ね。日本で一番長い無料の橋だよ。すごい景色だから楽しんで」と言った。

車窓から見える風景は、どこまでも続く透き通った海と緑豊かな木々。都会では味わえない、この静けさが心地よかった。タクシーは滑るように走り、やがて伊良部大橋の入り口に差し掛かった。橋の向こうには、青い海が果てしなく広がっている。奈々はその壮大な景色に息を呑んだ。

タクシーを降りて、奈々は橋を歩き始めた。全長3540メートルのこの橋は、宮古島と伊良部島を結ぶ架け橋だ。無料で渡れる橋としては日本一の長さを誇り、観光客や地元の人々に愛されている。橋の上には車が次々と行き交っているが、歩行者の姿も少なくない。奈々もその一人となり、橋の真ん中を目指して歩き出した。

足元には透明度の高い海が広がっている。魚影が見えるほど透き通っていて、まるで巨大な水族館の上を歩いているような感覚だ。太陽の光が水面に反射してキラキラと輝き、その光が奈々の心を明るく照らしていた。

「すごい、こんなに綺麗な場所があるなんて」

奈々は橋の欄干にもたれながら、海の風景を見つめた。橋の中央に差し掛かると、周囲には人影が少なくなり、静寂が支配していた。風が髪をなびかせ、耳元でささやくように通り過ぎていく。その音に包まれながら、奈々は少しずつ日常の喧騒から解放されていくのを感じた。

橋の真ん中に立つと、どちらを向いても果てしない水平線が見える。地平線と海の境目はぼんやりとしていて、まるで世界の終わりに立っているようだった。奈々は両手を広げ、大きく息を吸い込んだ。潮の香りが胸いっぱいに広がり、心の中の小さな不安がふっと消えていくようだった。

「この景色、ずっと忘れたくないな」

奈々はその瞬間を心に刻み込むように目を閉じた。しばらくして、再び目を開けると、橋の向こうに伊良部島が見えてきた。島へと続く道は、まるで未来への道しるべのように輝いて見えた。

奈々は歩みを進め、やがて伊良部島にたどり着いた。島は静かで、観光地とは思えないほどのんびりとした空気が流れている。歩道沿いには南国の花が咲き乱れ、赤や黄色の鮮やかな色彩が目を楽しませてくれる。

島の小さなカフェに立ち寄った奈々は、冷たいマンゴージュースを注文した。カフェのテラス席に座り、再び海を眺める。目の前には伊良部大橋があり、その向こうに宮古島が見える。ジュースを飲みながら、奈々は橋を渡ってきた道を振り返った。

「来てよかったな、ここに」

奈々は改めてそう思った。何かを成し遂げたわけではないけれど、この橋を渡ったことで、自分が少しだけ強くなれたような気がした。人生にもいくつかの橋があり、それを渡ることが必要なときがある。たとえどんなに長い橋でも、歩き続ければ必ず向こう岸にたどり着ける。そのことに気づけただけでも、この旅の意味はあった。

奈々はスマートフォンを取り出し、橋の写真を何枚か撮った。友人に見せるために、そして将来の自分のために。きっと、どこかで迷ったときに思い出すための記録だ。橋の写真を眺めながら、奈々は微笑んだ。そこには、かつての自分よりも少しだけ自信に満ちた自分が写っているように感じた。

帰り道、奈々は再び伊良部大橋を渡った。今度は伊良部島から宮古島への道だ。太陽は少しずつ傾き、オレンジ色の光が海を染めていた。橋の上で一瞬足を止め、奈々は夕日を眺めた。

「また来よう、この場所に」

奈々は心の中でそう誓った。人生のどこかで、またこの橋を渡る日が来るかもしれない。そのときは、今日の自分よりももっと成長した自分でありたい。そんな未来を思い描きながら、奈々は橋を渡り切った。

夕暮れの空に、伊良部大橋はまるで一筋の光の道のように浮かんでいた。その姿を最後に目に焼き付け、奈々は再び歩き出した。これからも、自分の道を進んでいくために。










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