「俺は小説家になる」と申しております

騒音と静寂

騒音と静寂

夏の午後、公園には子供たちの賑やかな声が響いていた。彼らは広い芝生の上で思い思いに駆け回り、空に向かって奇声を上げていた。その音は耳をつんざくようで、近くを通り過ぎる大人たちの眉をしかめさせる。私もその一人だった。

「何をそんなに騒いでいるんだろう」と、つい口にしてしまった。小学生くらいの男の子たちが数人、キャッチボールをしながら笑い声と共に奇妙な音を発している。まるでジャングルの動物のようだ。「ウワァー！」「ギャー！」と、全力で喉を使って叫び、投げたボールを捕らえられないと「オワー！」と、これまた大きな声を上げる。彼らの声が頭の中を突き抜けていく。

私はベンチに座り、本を読もうとしていた。だが、集中できない。公園のほかの場所でも子供たちが走り回り、大声で笑ったり叫んだりしている。彼らは実に楽しそうだが、その騒ぎは私の神経を逆撫でするようだった。私はため息をついて、本を閉じた。

「ねえ、少し静かにしてくれないかい？」と声をかけようかとも思ったが、やめた。子供たちの無邪気な遊びに水を差すようなことはしたくない。それでも、私は頭痛がしてきたような気がして、もう少し静かな場所を探すことにした。

歩いていると、ふいにある一人の少年が目に入った。ほかの子供たちとは少し離れた場所にいて、一人でブランコを漕いでいた。彼の顔にはどこか憂いが漂っている。ブランコの鎖をしっかりと握りしめながら、前後に揺れながら空を見つめている。彼の周囲だけが別の空気に包まれているようで、奇妙な静けさが漂っていた。

私はその少年に近づいて声をかけた。「どうしたの？　あまり遊んでいないように見えるけど。」

少年はゆっくりとこちらを向き、少し驚いた表情を見せた。「おじさん、知らないの？」

「何が？」

「みんな、声を出さないといけないんだ。さもないと、あいつが来る。」

「あいつ？」私はその言葉に興味を惹かれた。

少年は少し怯えたような顔で公園の奥を指差した。「あそこにいるんだよ。見えないけど、感じるんだ。声を出していないと、近づいてくるんだ。」

私は眉をひそめた。少年の話は作り話のように聞こえたが、彼の真剣な表情は冗談を言っているとは思えないものだった。「でも、君は静かにしているじゃないか？」

少年は小さく肩をすくめた。「僕はもう慣れているんだ。でも、ほかの子たちは怖いみたい。だから、あんなに大きな声を出している。」

私はその言葉に何か引っかかるものを感じた。もしかすると、子供たちの奇声の裏には何かしらの理由があるのかもしれない。少年が話していることが真実かどうかはわからないが、その言葉には何かしらの重みがあった。

「君の言っていることが本当だとしたら、どうすればいいんだろうね？」

少年は少し考えたあと、ブランコを漕ぐのを止めた。「わからない。でも、僕はもう怖くないんだ。おじさんも、怖がらないで。」

その言葉を聞いて、私は少しだけ肩の力を抜くことができた。周囲の子供たちの騒ぎ声が、ほんの少しだけ遠くに感じられた。私は少年に微笑みかけると、彼も小さく笑った。

「ありがとう。少しだけ安心したよ。」

少年は頷き、再びブランコを漕ぎ始めた。その姿を見ながら、私は不思議な気持ちに包まれていた。彼の言う「何か」は、本当に存在するのかもしれないし、存在しないのかもしれない。けれど、今はそれを探ることよりも、この奇妙な静けさの中でしばしの安らぎを感じることが大事な気がした。

私は再びベンチに戻り、本を開いた。奇声を上げる子供たちの声は相変わらずだが、なぜか以前よりも少しだけ心地よく感じられる。少年の話が頭の片隅に残りながら、私は再び物語の世界に没頭することにした。もしかしたら、彼らの奇声はただの遊びではなく、彼らなりの世界の一部なのかもしれない。