「俺は小説家になる」と申しております

ホップの香りと孤独の詩

ホップの香りと孤独の詩

朝日が差し込む窓際、冷えたビール缶が手にしっくりと馴染む。アルミ缶の表面には、昨日の熱気と寝汗の跡がまだ残っている。一口飲めば、ホップの苦みが舌を刺激し、炭酸が喉を通り過ぎる。至福の瞬間だ。

「ああ、つめたいー」

自嘲気味に呟く。窓の外は、早朝の人通りのない静けさ。鳥のさえずりが心地よく響く。

昨日から今日にかけて、私は小説を書き続けた。寝不足で目はしょぼしょぼし、首筋にはこわばりが残る。それでも、キーボードを叩く指は止まらない。物語の世界に没頭し、現実から逃避していたのだ。

ふと、頭をよぎる。

「引きこもって朝までゲームをしてたら『お宅』で、朝まで社会と断絶して小説を書いていたら『努力家』この差は何？」

確かに、どちらも社会とのつながりを遮断している。しかし、なぜ評価が異なるのだろうか？

ゲームをしている人は、非生産的で、時間とお金を無駄にしているように見られがちだ。一方、小説を書いている人は、創造的で、何かを成し遂げようとしているように評価される。

しかし、本当にそうだろうか？

ゲームにも、戦略を練ったり、物語の世界に入り込んだり、コミュニケーションを取ったりと、様々な楽しみ方がある。小説を書くことは、孤独な作業で、精神的に消耗することも多い。

では、なぜ「ゲーム」と「小説」では、同じような行為なのに、異なる評価を受けるのだろうか？

それは、社会が「生産性」を重視しているからだろう。ゲームは、直接的な成果を生み出さないため、非生産的と見なされがちだ。一方、小説は、形に残る作品を生み出すため、生産的と評価される。

しかし、本当に「生産性」だけが価値の基準なのだろうか？

人間は、単なる労働力ではない。私たちは、喜びを感じたり、悲しみを感じたり、創造性を発揮したり、様々な感情や経験を通して成長していく。

ゲームをすることや、小説を書くことは、そうした人間の多様な側面を満たすための行為の一つに過ぎない。

大切なのは、自分が何をして楽しいのか、何をしたいのか、ということではないだろうか。

私は、小説を書くことが好きだ。物語の世界を作り出すことは、私にとっての喜びであり、生きがいでもある。

もちろん、社会とのつながりも大切だ。しかし、常に社会に迎合し、他人の評価ばかりを気にして生きていく必要はない。

私は、自分のペースで、自分の好きなことをしたい。それが、たとえ社会から「引きこもり」と呼ばれたとしても。

ホップの苦みが、私の心を満たしていく。

「かんぱーい！」

私は、窓の外の朝日に向かって、静かにグラスを傾げた。

この瞬間、私は、自分自身を肯定することができた。

作家コメント
この小説は、現代社会における「生産性」や「自己実現」といったテーマを、ビールを飲みながら自己対話する主人公を通して描いています。

多様性: ゲームや小説など、様々な趣味や活動に対する価値観の多様性を描きました。
孤独と創造性: 孤独な作業である創作活動の意義を問い、自己肯定感の重要性を強調しました。
社会との関係: 社会とのつながりも大切ですが、自分自身を大切にすることの大切さを描きました。
この小説を通して、読者の方々が、自分自身と向き合い、自分らしく生きるためのヒントを見つけていただけたら幸いです。