「俺は小説家になる」と申しております

不幸の手紙

「不幸の手紙」

夜が更けるにつれて、町は静まり返っていた。冬の冷たい風が窓を叩き、外の暗闇が家の中に押し寄せるような気配があった。私は暖かい部屋で、ソファに座りながら、今日の出来事を整理しようとしていた。そのとき、郵便受けに何かが入っていることに気づいた。宛名もなく、ただの白い封筒だった。

「また、広告かな？」と私は思いながら、封筒を取り出し、中を確認することにした。中には、一枚の白い紙が入っていた。紙には、ただ一言だけが書かれていた。

「あなたに不幸が訪れます。」

その短いメッセージに、私は一瞬息を呑んだ。何気なく手に取った紙が、私の心に恐怖の種をまいた。送り主の名前も、差出人も書かれていない。ただ、紙の裏には何も書かれていなかった。私はその紙をじっと見つめたまま、冷たい手が背中に走るのを感じた。

「誰がこんなことを…」と私はつぶやいた。だが、考えれば考えるほど、恐怖が増していった。もしかしたら、誰かのいたずらかもしれない。しかし、その「不幸が訪れる」という言葉は、私の心に深く刻まれ、夜がさらに静かに感じられた。

その晩、私は眠れずにいた。時計の針が深夜を過ぎる頃、家の中で微かな物音が聞こえ始めた。何かが家の中で動いているような音、扉がわずかに軋む音が、私を不安にさせた。確認しようとしても、何も見つからなかった。家の中は、ただの静寂だけが支配していた。

翌朝、私は不安と疲れが残るまま目を覚ました。朝食を取ろうと台所に向かうと、テーブルの上に新たに手紙が置かれているのを見つけた。封筒には同じく宛名がなく、ただ一言だけが書かれていた。

「不幸が近づいています。」

心臓が急に早く打ち始めた。手紙は私の家にしか入らないように見えるが、どこから来るのか、誰が送っているのか全く分からない。私はもう一度、家の中を確認し、閉じられているすべての窓と扉が確かであることを確認した。

その日、私は外出しようと決めた。心のどこかで、この恐怖を物理的に逃れることで解決できるのではないかと思っていた。しかし、外に出ると、冷たい風が吹き荒れ、私を包み込んだ。町を歩き回っても、心の中の不安は拭えなかった。家に戻ると、またしても同じ封筒が郵便受けに入っていた。

その手紙には、ただ一言。

「あなたの時間は尽きました。」

私の手は震え、顔が青ざめた。これ以上の手紙は耐えられないと思い、警察に連絡しようかとも考えた。しかし、警察が介入するほどの具体的な証拠がないと、彼らに思われるかもしれないと考え、結局は何も言わずにいた。

夜が来ると、家の中にまた不気味な静寂が訪れた。風の音や物音が続き、私の不安をかき立てる。心臓の鼓動が速くなり、恐怖に押しつぶされそうだった。その時、家の中で微かな振動が伝わってきた。ドアノブが微妙に動く音、誰かが家の中に入ろうとしているような音がした。

私は息を殺して待った。ドアが開く音が聞こえた。誰もいないはずの空間に、冷たい風が吹き込んできた。ふと振り向くと、目の前に薄暗い影が立っていた。影は徐々に近づいてきて、その存在感が私を圧倒した。

「あなたに不幸が訪れます」と、その影がささやいた。その声は冷たく、私の心を凍りつかせた。影は徐々に姿を現し、ぼんやりとした人影が目の前に立っていた。彼の目は真っ暗で、何も見えなかった。

その瞬間、私の体は動かず、恐怖に凍りついていた。影が私の近くに迫り、私の心臓が激しく鼓動した。影が触れた瞬間、私の視界が真っ暗になり、恐怖と無力感に包まれた。

翌朝、家の中は静まり返っていた。手紙も見当たらず、家のどこにも異常は見られなかった。ただ、一枚の白い紙がテーブルの上に置かれていた。そこには、ただ一言だけが書かれていた。

「すべては終わりました。」

その言葉が示すものが何であれ、私の心の中に残る恐怖は、決して消えないままであった。