「俺は小説家になる」と申しております

ルームシェア

ルームシェア

初夏のある日、大学2年生の恵子は、友人の沙織と共に新しい住居を見学していた。都会の喧騒を離れ、静かな住宅街に位置するそのアパートは、築年数は少し経っているものの、広々としたリビングと明るい日差しが差し込む部屋が魅力的だった。

「ここ、いいね！」沙織は興奮気味に言った。「広いし、家賃も手頃だし。」

恵子も頷いた。「うん、ここならお互いのプライバシーも保てそうだし、何より快適に過ごせそう。」

二人はすぐに決め、数週間後には新居に引っ越すことになった。初めてのルームシェア生活は、最初は新鮮で楽しかった。共通の趣味である映画鑑賞や料理を楽しみながら、夜遅くまで話し込むことも多かった。

しかし、次第に些細なことで衝突が生まれるようになった。沙織は整理整頓が苦手で、部屋中に散らばる彼女の服や本が恵子の神経を逆撫でする。一方、恵子は過剰に几帳面で、少しでも部屋が乱れるとイライラしてしまう。

「沙織、お願いだからもう少し片付けてくれない？」ある日の朝、恵子は堪えきれずに言った。

「ごめん、今忙しくて…後で片付けるから。」沙織は焦りながらも返事をしたが、その「後で」が何度も繰り返された。

数週間が経ち、二人の間に溝が広がり始めた。コミュニケーション不足からくる誤解や不満が積み重なり、次第に言葉数も減っていった。

ある夜、恵子は意を決して沙織と話し合うことにした。リビングで二人が向き合った時、恵子は深呼吸をして口を開いた。

「沙織、私たちの関係がこのままでいいとは思わない。お互いにもっと理解し合う努力をしないと、ここでの生活が苦しくなってしまう。」

沙織も黙っていられなかった。「私も同じことを思ってた。恵子がいつも私のことを批判してるように感じて、辛かった。」

その夜、二人はお互いの感情や考えを率直に語り合った。沙織は自分のだらしなさを反省し、恵子も過剰な几帳面さが相手にプレッシャーを与えていたことを認めた。

「お互いに少しずつ歩み寄っていこうよ。」恵子が微笑みながら言った。

「うん、そうだね。」沙織も微笑み返した。

その後、二人は家事の分担を見直し、お互いのスペースを尊重するルールを作った。些細なことでも感謝の言葉を掛け合うようになり、再び楽しいルームシェア生活が戻ってきた。

季節は流れ、再び初夏が訪れた。ある日の夕方、二人はリビングで一緒に夕食を楽しんでいた。沙織がふと口を開いた。「私たち、よくここまでやってこれたよね。」

「本当にね。」恵子は笑顔で応じた。「でも、やっぱり一緒にいる時間が一番楽しい。」

二人はお互いを見つめ、心からの笑顔を交わした。ルームシェアの生活は決して楽なものではないが、お互いの努力と理解があれば、どんな困難も乗り越えられると信じられるようになった。

その日、恵子と沙織は新しい絆を感じながら、再び新たな日々に向かって歩み始めた。