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きゅうりも買えない

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きゅうりも買えない

夏の暑い日、陽子は冷蔵庫を開けてため息をついた。若芽の酢の物が食べたくてたまらないのに、きゅうりがない。ここ最近、仕事を辞めて収入が減ったため、スーパーでの買い物も制限せざるを得なかった。

「きゅうりなんて、こんなに高いなんて……」陽子は手のひらに載せた少しの小銭を見つめ、やるせない気持ちに包まれた。

近所のスーパーに行ってみたものの、やはり予算が足りず、きゅうりを買うことはできなかった。陽子は肩を落とし、ゆっくりと家に戻った。

帰宅後、台所に立ち、冷蔵庫の中を再び覗き込んだ。少しだけ残っていた若芽と、お酢、砂糖、醤油が目に入った。思い出したように、小さな箱に入った乾燥わかめを見つける。

「これだけでも、なんとかなるかも……」

陽子は希望を胸に、簡単な酢の物を作り始めた。乾燥わかめを水で戻し、お酢と砂糖を混ぜたタレで和えた。きゅうりがなくても、わかめの食感とタレの酸味が相まって、十分に美味しそうだ。

「これで十分。きっと美味しいよ。」

陽子は自分に言い聞かせるように、わかめの酢の物を一口食べた。その瞬間、口の中に広がる爽やかな酸味とわかめの柔らかさに、ほっと胸をなでおろした。

その夜、陽子はベランダに出て、夕涼みをしながら静かに自分の食事を楽しんだ。街の明かりがぼんやりと輝き、遠くで聞こえる子供たちの笑い声が心地よく響いた。

「きゅうりがなくても、幸せを感じることはできるんだな……」

陽子は静かに微笑み、自分の小さな幸せを噛み締めた。酢の物のシンプルな味わいが、日々の些細な喜びを思い起こさせる。物質的な豊かさだけが幸せの源ではない。今、こうして感じる穏やかな時間こそ、何よりも貴重なものであることに気づいた。

その後、陽子は毎日の食事を大切にし、自分の工夫で少しずつ新しいレシピを試みるようになった。収入が少なくても、心の豊かさを求めることで、日常の中に多くの喜びを見つけることができたのだ。

そして、ある日、近所のおばあちゃんから声をかけられた。

「陽子ちゃん、このきゅうり、たくさんもらったんだけど、一緒に食べない?」

おばあちゃんの優しい笑顔と共に差し出されたきゅうりは、陽子にとって何よりも嬉しい贈り物だった。

「ありがとうございます、おばあちゃん!」

その日、陽子は久しぶりにきゅうり入りの若芽の酢の物を作った。自分の工夫と人々の温かさが織りなす日々の中で、陽子は再び幸せを感じながら食卓を囲んだ。

END





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