上 下
863 / 1,736

「45年も帰っていない実家に行ってみよう。」2

しおりを挟む
「45年も帰っていない実家に行ってみよう。」2

その日から、私は毎週末、実家に通うようになった。手に馴染んだ工具を持ち、錆びた扉を直し、埃を払う。廃材を処分し、少しずつ家が息を吹き返していく様子を見ながら、心が穏やかになっていくのを感じた。

近所の人々も私のことを覚えていて、手を貸してくれた。昔、よく遊んだ友人たちも訪ねてきて、庭の手入れを手伝ってくれた。いつの間にか、家は再び人々の集まる場所になっていた。庭でバーベキューをしたり、縁側でお茶を飲んだりするうちに、昔のような笑い声が絶えない場所になっていった。

ある日、母の古い日記を見つけた。埃を払い、ページをめくると、そこには家族との日々が綴られていた。私が生まれた時の喜び、父との思い出、そして私が家を出た後のことも書かれていた。

「今日は息子の帰りを待っていたけど、来なかった。いつか、また会える日を夢見て…」

母の日記を読み進めるうちに、胸が締め付けられるような気持ちになった。もっと早く帰ってきていれば…そんな後悔が胸をよぎる。しかし、同時に母の温かい思いが伝わり、涙が溢れた。

秋が深まり、庭の木々が赤や黄色に染まる頃、私は思い切って大掃除を決行した。友人たちや近所の人々の協力を得て、家全体を綺麗にした。壁を塗り替え、床を磨き、家具を修復し、まるで新築のように蘇った家を見て、みんなで拍手を送った。

「これからはこの家を、またみんなの集まる場所にしよう。」

私の言葉に、友人たちも笑顔で頷いた。家族の思い出を大切にしながら、新しい思い出を積み重ねていこうと心に決めた。

クリスマスが近づくと、友人たちと一緒に大きなツリーを飾った。家の中がキラキラと輝き、暖かい光に包まれた。誰も住んでいなかった寂しい家が、再び温かい笑い声で満ち溢れる場所になったのだ。

クリスマスイブの夜、家の中にはたくさんの人々が集まり、楽しいひと時を過ごしていた。子供たちは走り回り、大人たちは昔話に花を咲かせる。そんな中、私はひとり、家の中を見渡しながら、亡き両親のことを思っていた。

「お父さん、お母さん、見てくれていますか?この家は、またみんなの笑顔で溢れていますよ。」

ふと、リビングルームの片隅に立っている両親の写真に目をやると、そこには微笑む二人の姿があった。心の中で「ありがとう」と呟き、温かい気持ちに包まれた。

年が明け、新しい生活が始まった。毎週末、実家に通いながら、家族や友人たちと共に過ごす時間が増えた。かつての思い出を大切にしながら、新しい未来を築いていく。そんな日々の中で、私は再び家族の愛と絆の強さを実感していた。

そして、いつの日か、自分の子供たちや孫たちにも、この家を守り続けていく大切さを伝えたいと思った。家族の歴史が詰まったこの場所が、これからも永遠に続いていくようにと願いながら。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

季節の織り糸

春秋花壇
現代文学
季節の織り糸 季節の織り糸 さわさわ、風が草原を撫で ぽつぽつ、雨が地を染める ひらひら、木の葉が舞い落ちて ざわざわ、森が秋を囁く ぱちぱち、焚火が燃える音 とくとく、湯が温かさを誘う さらさら、川が冬の息吹を運び きらきら、星が夜空に瞬く ふわふわ、春の息吹が包み込み ぴちぴち、草の芽が顔を出す ぽかぽか、陽が心を溶かし ゆらゆら、花が夢を揺らす はらはら、夏の夜の蝉の声 ちりちり、砂浜が光を浴び さらさら、波が優しく寄せて とんとん、足音が新たな一歩を刻む 季節の織り糸は、ささやかに、 そして確かに、わたしを包み込む

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

感情

春秋花壇
現代文学
感情

処理中です...