「俺は小説家になる」と申しております

「閉ざされた心の窓」

「閉ざされた心の窓」

引きこもりおじさんの田中一郎は、長い間自室に閉じこもっていた。彼の生活は、ネットとゲーム、そして書籍の世界に閉じこもっていた。外界との接触はほとんどなく、唯一の人間関係は、週に一度訪れる主治医の山田先生だけだった。

ある日、山田先生は言った。「田中さん、少しでもいいから、外に出てみませんか？日光を浴びるのも、心身の健康に良いですよ。」

その言葉に半ば押し出される形で、一郎は久々に外の世界に足を踏み出すことを決意した。久しぶりの外気は新鮮で、彼の肌に心地よく触れた。道端の草花や、風に揺れる木々の葉音が心を和ませた。しかし、同時に一郎は強烈な不安感と奇妙な衝動に襲われた。

その日、一郎は町内をゆっくりと散歩していた。住宅街を歩いていると、向こうから女子高生の一団が歩いてくるのが見えた。制服姿の彼女たちの姿を目にした瞬間、一郎の心に奇妙な衝動が芽生えた。「彼女たちの胸をメジャーで測りたい。」彼は自分の考えに驚き、戸惑った。自分がこんな思考を抱くなんて信じられなかった。

「いったい何を考えているんだ、俺は。」一郎は自分に言い聞かせ、その場から逃げるようにして歩き続けた。心の中で強く自己嫌悪を感じながらも、その衝動を完全に振り払うことはできなかった。

さらに歩いていると、今度は民家の庭先に干してある女の子の下着が目に入った。その瞬間、一郎の心は再びざわめいた。「あの下着に触れてみたい。」その考えは、彼を一層自己嫌悪に陥れた。自分の中に潜んでいる暗い欲望に直面し、一郎は愕然とした。

彼は家に戻ると、すぐに山田先生に電話をかけた。「先生、俺はもう外に出られません。俺はおかしいです。どうしようもないほどに。」

山田先生は静かに一郎の話を聞き、ため息をついた。「田中さん、それは確かに深刻な問題ですね。しかし、外に出ること自体は悪いことではないんですよ。あなたの心の中にある問題に向き合うためにも、もう一度カウンセリングを受けてみませんか？」

しかし、一郎の心はすでに決まっていた。「いいえ、もう無理です。俺はまた引きこもります。外に出ると、自分がどうしようもなくなります。」

それからというもの、一郎は再び部屋に閉じこもった。外の世界への恐怖と、自分自身への嫌悪感が彼を押し込めた。彼は再びネットの世界に没頭し、現実から目を背け続けた。

一郎はネット上でいくつかのフォーラムに参加し、同じような問題を抱える人々と交流を持つようになった。彼らと話すことで、一時的に心が安らぐこともあったが、根本的な解決には至らなかった。

日々が過ぎ、再び山田先生が訪問した。先生は一郎の変わらない様子に心を痛めた。「田中さん、あなたが感じていることは一時的なものかもしれません。もう一度、少しだけでも外に出てみませんか？私が一緒にいますから。」

一郎は一瞬、山田先生の言葉に心が揺れた。しかし、彼は首を振った。「先生、俺はもういいんです。このままが一番安全なんです。」

山田先生は深い悲しみと無力感を抱えながら、一郎の部屋を後にした。一郎の心の中にある闇は、まだ消えることはなかった。しかし、彼の中で少しずつでも変わる勇気が芽生える日が来ることを、山田先生は願ってやまなかった。

一郎の物語は、心の病と向き合うことの難しさ、そして周囲の理解と支えの重要性を浮き彫りにしている。彼が再び外の世界に向かい合う日が訪れることを信じて、山田先生は彼の元を訪れ続けるのだった。