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一人ぼっちの待ち会

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一人ぼっちの待ち会

薄暗いバーのカウンターに腰掛け、私はグラスの中の琥珀色の液体を眺めていた。もうすぐ、文学賞の選考結果発表の時間が来る。

私は今回初めて候補に選ばれた。周りの作家たちは、すでに著名な人物ばかりだ。受賞する可能性は低いと分かっている。それでも、心の奥底には期待が渦巻いていた。

周りを見渡すと、他の候補者たちは編集者や友人と談笑している。楽しそうな声が耳障りだ。私は一人ぼっちだ。

出版社から連絡があり、選考結果発表の場に招待された。しかし、誰にも話す相手がいなかった。編集者は忙しいのか、連絡しても音沙汰がない。

私は、バーカウンターに置かれた携帯電話を手に取った。SNSを開くと、華やかな文学賞パーティーの写真が目に飛び込んできた。受賞候補者たちが笑顔で写っている。

私は、画面をそっと閉じた。孤独感がさらに増していく。

バーテンダーが、グラスに新しいウィスキーを注いでくれた。私は、それを一口含んだ。苦味が口の中に広がる。

ふと、バーの入り口に人影が映った。男は、ゆっくりと店内に入ってくる。背の高い、どこか見覚えのある男だ。

男は、私の隣に座った。そして、静かにこう言った。

「君も候補者か?」

私は、男の顔を見つめた。それは、かつて私の師匠だった小説家だった。

師匠は、数年前、突然小説界から姿を消した。その後、消息は全く分からなかった。

「師匠?!」

私は、驚きを隠せなかった。師匠は、穏やかな微笑みを浮かべていた。

「久しぶりだな。」

師匠は、私のグラスにウィスキーを注いだ。そして、こう言った。

「結果は気にしなくていい。大切なのは、これからも書き続けることだ。」

師匠の言葉は、私の心に響いた。私は、これまで自分が何のために書いていたのかを思い出した。

受賞という結果だけが全てではない。私は、自分の物語を書き続ける。

師匠は、バーを出て行った。私は、師匠の背中を見送りながら、決意を新たにした。

選考結果発表の時間は、もう間もなくだ。私は、グラスの中のウィスキーを飲み干した。そして、バーを後にした。

結果発表の会場に向かう途中、私は空を見上げた。夜空には、満月が輝いていた。

私は、深呼吸をした。そして、一歩ずつ前に進んでいく。

その後
私は、師匠の言葉を胸に、今日も書き続けている。

受賞は逃したが、私の作品は少しずつ評価されるようになってきた。

いつか、師匠のように、多くの人に愛される小説家になりたい。

私は、その夢に向かって、今日も筆を執る。
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