「俺は小説家になる」と申しております

夜目遠目笠の内

夜目遠目笠の内

薄紅色の桜が舞い散る春の日、女流絵師・月夜見は、桜並木の下で絵を描いていた。美しい景色に心を奪われ、筆を走らせる月夜見。しかし、彼女の目は霞んでいた。病に冒され、視力は日に日に弱っていく。

月夜見は幼い頃から絵を描くことが好きだった。しかし、家柄のため、自由に絵を描くことは許されなかった。それでも、彼女は密かに絵を描き続け、いつか自分の絵を世に送り出すことを夢見ていた。

ある夜、月夜見は夢を見た。夢の中で、彼女は美しい夜空を自由に飛び、月を手に取っていた。それは言葉で表せないほどの幸福感だった。

目覚めた月夜見は、夢の余韻に浸りながら、決意を固めた。たとえ命懸けでも、自分の絵を描き続けるのだ。

月夜見は病を押して、絵を描き続けた。しかし、視力は悪化し、思うように描けなくなっていく。それでも、彼女は諦めなかった。

「夜目遠目笠の内。暗闇ではよく見えないし、遠くから見ると粗末に見えるかもしれない。でも、近くで見れば、私の想いが伝わると信じています。」

月夜見はそう呟き、筆を握り締めた。

月夜見の絵は、独特な雰囲気を持っていた。ぼんやりとした輪郭と鮮やかな色彩は、見る人の心を惹きつけて離さなかった。

ある日、月夜見の絵が評判となり、展覧会に招待された。月夜見は病を押して展覧会に参加し、自分の絵を人々に披露した。

展覧会は大盛況となり、月夜見の絵は多くの人の心を動かした。人々は、月夜見の絵に込められた想いを理解し、感動した。

月夜見は、自分の絵が人々に受け入れられたことに喜びを感じた。しかし、病状は悪化し、死期が近づいていた。

「ありがとう、絵。あなたは私の生きる支えでした。」

月夜見はそう呟き、静かに目を閉じた。

月夜見の死後、彼女の絵は多くの人に愛され、語り継がれていく。月夜見の想いは、絵を通して永遠に生き続ける。


「夜目遠目笠の内」は「よめとおめかさのうち」と読み、夜間や遠くから見たり、笠をかぶった顔の一部をのぞいて見たりすると、姿かたちがはっきりしないので実際より美しく見えるという意味です。多くは女性に用いられます。